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2017年度下半期/金融業界求人動向総括
銀行・信託銀行
昨年末にメガバンクの大規模な人員削減計画が報道され、話題となりました。先日は、ある大手人材会社から、「銀行出身の転職希望者の登録が3割増えた」との発表もありました。変革が求められている環境下において、下半期の銀行の採用活動はどうであったか、振り返ってみたいと思います。
フィンテックの影響を受けるバックオフィスやマイナス金利の影響を受ける融資関連業務など、一部の求人は昨年来継続して減少傾向にあるようです。しかしながら全体を見れば、投資銀行業務やリスク管理、システム、監査、コンプライアンス、PB、不動産、資産承継や年金コンサルティングなど、専門職の分野を中心に依然としてスペシャリストの求人意欲は高く、そういった意味では銀行の採用活動は相変わらず活発であると言えそうです。
特に今年度目立ったのが、「銀行に無い知見を異業界に求める」採用です。
市場拡大が見込まれる遺言信託や事業承継コンサルティングビジネスにおいては税理士や会計士、司法書士、不動産鑑定士をはじめとして専門的知識を有したプロフェッショナルが多数迎えられました。
コンプライアンス部門ではサイバーセキュリティーの専門家が、また、商品開発部門ではビッグデータの解析を新サービス開発に活かすことが出来るデータサイエンティストなど、IT分野のプロも様々な業界から受け入れられています。
更に海外進出に生き残りをかける銀行においてはグローバル人事の専門家も異業界のグルーバル企業から引き抜かれました。
どの職種についても言えることですが、「正社員を超える好待遇」を可能にするべく新たな雇用契約形態やインセンティブ規定が設けられることも、いまや珍しくなくなりました。
「銀行の機能は今後顧客とのリレーションシップマネジメントが中心となり、専門的機能はグループの証券会社やアセットマネジメント会社が担う」と旧来の銀行機能の縮小を予想する向きもあります。しかし、銀行はそれぞれ、グループの機動力を結集し、銀行・信託・証券・資産運用という業態の垣根を超えたサービスの提供でより高度な顧客ニーズに応えることを目指しています。自らを変革するフットワークの軽さは、私の知るかつての銀行からは想像できないほどです。この傾向はいましばらく続きそうです。
資産運用
資産運用の業界では、販売を委託する地方銀行の規模縮小や、投信の手数料の減少などの影響を受け、採用ニーズが一時縮小傾向にありましたが、一段落したのでしょうか、昨年末から変化がみられます。
ひとつは金融機関や機関投資家に対するセールス、プロダクトスペシャリストニーズの復活です。とりわけジュニアクラスの募集が増加しており、銀行や証券会社など金融機関出身者であれば資産運用経験は問われない求人も目立ちます。こうした求人は、特にセルサイドからバイサイドへ移りたいという証券会社出身者に人気です。
また、特筆すべきはイノベーション人材の引き合いが際立っていることです。顧客へのプレゼンテーションにyou tubeなどの動画を用いるなど、従来の投信営業にテクノロジーを駆使したマーケティング手法が求められていることが背景にあるようです。こちらは銀行の採用同様、異業界出身者にも門戸が大きく開かれています。
外資系の運用会社においては、日本はまだ拡大の余地があると、更なる事業拡大を計画する企業も多く、プロダクトやオペレーションの立ち上げ経験のある方など、シニア人材も求められています。
証券・投資銀行
証券会社の採用においては、変貌を目指す銀行のそれとは少し様相が異なります。好景気を背景に投資銀行業務のあらゆるセクターで人材ニーズが高騰しています。
注目すべきは、ここ数年目立っていたデット・キャピタル・マーケットでの経験者採用に加え、昨年後半からエクイティー分野での経験者募集が急増していることです。ここは即戦力として経験者が求められており、有能な人材を巡って熾烈な獲得合戦が繰り広げられています。
PE・VC
相変わらずベンチャーキャピタル、PE共に求人が活況ですが、その採用ニーズは従来とは違ってきています。
投資のプロフェッショナルとしてのVC自体が、ファンズ・オブ・ファンズのVC/グローバルVC/産学連携のVC/大学のVCあるいは大学発の投資事業などこれまでとはその形態を変容させてきており、専門性を高めています。そうなると、たとえば、ヘルスケアに特化した外資系VCをはじめ、バイオテクノロジー、AIベンチャーなど、各分野それぞれの技術領域でデューデリジェンスができる人材が求められる傾向にあります。当然異業界からの人材登用が急務となるわけですが、事業会社出身者には投資会社が馴染まないことも多く、採用はなかなか苦戦しているのが現状です。
このように経験者採用が困難であるとなると、最近は翻って「未経験者育成プログラム」なる名称で20代の若手をポテンシャル採用する求人も目立って参りました。投資プロフェッショナルとしての専門性を身につけたいと応募する、大手金融機関出身の若手優秀層も多く、継続して注目して参りたいと思います。
保険
保険業界では、これまで他国に比べ高い傾向にあった国債運用比率を見直して、より高いリターンが期待できる外債や外国株、インフラファンドなどへ資金をシフトする動きが顕著です。具体的には海外の運用会社の買収や業務提携、ヘッジファンド型の運用手法の採用、プロジェクトファイナンスなど、運用の高度化に向けた各社の取り組みがここ最近目立って参りました。とりわけ社債などのクレジットやインフラへの投資を柱とした、自ら投資先を発掘し、より高いリターンを狙う、これまでにない投融資が目立ちます。
こうした事業戦略を受けて、保険業界の人材ニーズには特徴的な変化が表れています。これまで日本の保険会社では新卒や系列の運用会社から人材を調達することが一般的でしたが、最近では銀行のプロップディーラーやプロジェクトファイナンス、その他投資銀行業務経験者など、外部からの専門人材の採用が拡大しているのです。
金融業界全般
金融業界全般に言えることと言ってよいと思われますが、アソシエイトクラスの採用は容易ではありません。新人の採用スペックが軒並み「未経験可」と記載されていることが、その難易度を物語るかのようです。そもそも企業の採用ニーズに対して、求職者が圧倒的に少ない。サブプライム以降の採用抑制によって生じた若手人材不足の皺寄せに加え、従来の採用ルールがいまのアソシエイトに響かないことも大きな要因でしょう。単に、高い給与を約束しただけではモチベートされない若手人材に対し、どんな機会創出を提示できるのか。若手人材獲得の機会損失は、未来への大きなダメージにもつながります。従来の給与体系、雇用形態の抜本的な見直しを行うなど、大きな変革に踏み切れなければ、この空前の売り手市場の前では、優秀な人材の流出はさけられないかもしれません。
半年前にも私は、「自らを変えることができた企業から成功している。」と書きました。その傾向は2018年も続きそうです。
KANAEアソシエイツ株式会社 代表取締役 阪部哲也