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変化する日系金融機関の監査部門と、いま求められる人材について
コーポレートガバナンス強化の流れや、複雑化する金融機関独自のリスクに対する高度な管理の必要性などを受けて、金融機関の内部監査の重要性は益々高まっています。
数年前までは伝統的な日系金融機関における監査部といえば、その多くの人が40代~50代で、監査の専門家というより、むしろゼネラリストとして長年キャリアを積んでこられた方が中心でした。その結果、監査部門は専門人材が不足し、国内外の当局や社会の要請に応えられないこともありました。しかしここ数年、メガバンクや大手損害保険会社などが、監査法人、金融庁、日本銀行出身者など外部から監査の専門家を精力的に採用した結果、金融機関の内部監査部門は、質・量ともに人材が充実してきているといえます。
転職者で最も目立つのは監査法人出身者です。監査法人では40代の方々は多くの場合監査関連業務の他に管理職としての役割を会社から要望されますが、現場で専門性を高め続けたい方や、ワークライフバランスを重視される方に、金融機関の内部監査は転職の有力な選択肢として検討頂けているようです。
金融機関の監査部門で中途採用に求められるキャリアには、拡がりも見られます。
メガバンクなどグローバルに展開する金融機関は、数年前から国際標準のガバナンスである3線モデルを構築して準拠性検査の機能を2線に移管しており、監査部門は執行部門の内部管理態勢の有用性の検証や、その他、経営に資する監査の実践を進めています。それに伴い、監査未経験であっても執行部門の実務経験者に採用対象が拡がっています。足許では、AML人材、市場リスクのモデル構築人材の募集があります。また、サイバーセキュリティの専門家や、ビジネスレベルの英語力を持つIT人材は特に引く手あまたです。今後はデジタル戦略関連部門の投資対効果の監査、フィンテック最先端技術導入に伴うリスク管理の監査、フィデューシャリー・デューティー遵守の監査、社員の過重労働の監査等にもニーズが発生するのではないでしょうか。
採用対象が拡がったとはいえ、求職者側の本音としては「金融機関は総合職故、入社後に異動や転勤があるのではないか」「将来は、出向になるのではないか」と躊躇される方が少なくないのではないかと思います。今回注目したいのは、金融機関側の採用姿勢の変化です。
特筆すべきは金融機関が転職者を「専門職として厚く処遇するため」に自ら制度改革を行っていることです。例えば、CIAやCISAの取得を条件として執行部門への異動がない監査専門職制度を導入した金融機関や、異動・出向の可能性が無く監査部門に居続けられる嘱託社員制度を適用する銀行があります。入社時に管理職待遇でオファーをするケースもでてきました。
弊社からのご紹介で日系金融機関の監査部に転職された方々からは「グローバルに展開する日系企業のヘッドクオーターで監査の態勢構築に従事できてやりがいを感じる」「金融機関独自の規制対応等、常に新しいテーマの監査があり、向学心が満たされる」など前向きな声が聞かれます。その一方で、「経営が認識する監査の重要性がまだ浸透しておらず、執行部門からはむしろ疎まれることがある」など、乗り越えなければならない課題も存在するようです。いずれも過渡期の混乱を物語るものではありますが、こうした状況を新たな変革として捉え、やりがいを見出されるタイプの方であれば、十分に検討頂くに値する選択肢かと存じます。
本稿では金融機関における監査人材不足を強調してしまったかもしれません。しかし、一般企業における従業員数に対する内部監査スタッフは0.1%程度であることに比べて金融機関のそれは1~2%といわれています。同僚と切磋琢磨しながら専門性を磨き続けることのできる環境かと思います。日系金融機関の監査部門での就業を新たな活躍のステージとしてご興味をお持ちの方は、ぜひご相談ください。
専門コンサルタント 土井 徹