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周辺領域への進出を目指す保険業界が異業界に求める知識と経験

 今年も東京モーターショーが開幕しました。今回、トヨタ自動車のブースには、来年発表される車は一台もないそうです(別の場所にあるそうです)。昨年5月、「モビリティーカンパニーとしてフルモデルチェンジする」ことを宣言したトヨタ自動車。世界的企業が発信した自社の存在意義を変革するこの宣言は、大変印象的でありました。

 こうしたイノベーションの波はもちろん、金融業界とて例外ではありません。本稿では特に保険業界の変革へのチャレンジと、それに伴う人材ニーズの変化についてレポートします。

 少子化に伴う人口減少や、自動車の自動運転技術の発達、カーシェアリングの浸透や、予防医学の発達などに伴い、生命保険業、損害保険業共に、伝統的な主戦場は市場が縮小に向かいつつあります。更に2018年からの自動車保険の保険料引き下げや、国内の自然災害の増加に伴う支払保険金の増加は利益を圧迫する要因となり、加えてインターネット等を活用した異業種からの保険業参入や価格破壊など、競争の環境は益々激化しています。こうした中で保険会社各社は、海外の保険会社を買収するなど海外進出を積極的に進めていますが、一方では、カスタマーとの接点拡大や顧客ロイヤリティーの獲得により競争を勝ち抜くことを目的に、周辺領域への進出に果敢にチャレンジしています。

 たとえば損害保険ジャパン日本興亜はディー・エヌ・エーと組み、カーシェアリング事業に進出しました。同社は他に、介護事業の買収やサイバーセキュリティー事業への参入、駐車場シェア事業への参入なども果たしています。
 東京海上日動火災保険はフィンテックのマネーフォーワード社と連携して家計簿で保険を提案するサービスを開始しています。
 住友生命保険はプラスメディ社に出資して、病院の医事会計システムと電子カルテシステムの双方と連携した独自のソリューションを提供しています。また、同社とアクサ生命保険は共同で介護施設相談のサービスもスタートさせました。
 他にもインシュアテックの領域では安心・安全・健康のキーワードを軸に、ヘルスケアや自然環境など、保険と親和性の高い周辺領域への進出が多数検討されています。

 ここで特徴的なことは「異業種との積極的な連携」と言えましょう。自社の持つデータベースやその他の独自資産を活かしつつ、最先端のテクノロジーを活用して新しいサービスを想像する試みは、変革期を迎えた保険業界にとっては必然です。しかしながら、未知の領域でのビジネスは必ずしも容易なものではありません。そこで異業界との提携が必然ということになるわけです。

 異業界に知識や経験を求める手段は提携だけではありません。キャリア採用も有効な方法です。プラットフォーマーと呼ばれるIT企業をはじめ、ヘルスケア、エンジニアリング、消費財メーカー、自動車業界など、異業界の、様々なスキルを持ったスペシャリストに白羽の矢が立っています。最近の求人ニーズを具体的に見てみましょう。

・0→1で新しいビジネスモデルを創造できるアイデアに溢れた事業企画のプロフッショナルは引く手数多です。
・また理系のバックグラウンドから実証検証のできる人材の求人ニーズも高騰しています。
・更にプロジェクトが始動した際にハンズオンで推進できるプロジェクトマネージャー、同時進行する複数のプロジェクトの交通整理ができるPMOの求人ニーズも増えています。
・また企業内でVC的な役割を果たすCVCの求人も目立ちます。
・一方で、新規事業における守りの側面からセキュリティ部門やGDPRに対応する法務人材などのスペシャリストの求人ニーズも高まっています。
・スマホユーザーとのコンタクトポイントがビジネスの商機となるため、デジタルデバイスにおけるWebアプリの開発者やWebデザイナーの求人ニーズも引き続き堅調です。
・またユーザーエクスペリエンスに通じているデジタルコンサルタントや、マーケティングに精通した消費財メーカー出身者および代理店経験者が歓迎される傾向にあります。

 弊社からのご紹介でも既に複数名の方が転職を果たしていらっしゃいますが、皆様にお話を伺う中で、意思決定の決め手となった動機に共通項があることに気が付きました。
① 金融業界に眠る膨大なビッグデータの活用が出来ること。
② 黎明期であり変革期なので、チャレンジし甲斐があること。
③ (会社のデジタル化への本気度を感じるから)異業種から集まった優秀な仲間と切磋琢磨できること。
共通するのは、新しい業務に携わる高揚感がモチベーションになっているという点です。会社の安定性や給与だけではない魅力がそこにはあります。

 これからの金融業界が新たな機会の創出を常に約束できる環境であり続けられるかどうか、新規事業ゆえのトライアル&エラーをどこまで許容できるか、かつての成功体験やビジネスモデルからの脱却等、乗り越えなければならない課題はあるかもしれません。しかしながら本件に携わる皆様の前向きで創造的なお話を伺っていると私自身ワクワクさせられることも多く、今後の変容に注目して参りたいと思います。

 専任コンサルタント 兵藤正憲

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