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緊急事態宣言から解除まで。採用動向はどう変化したか
5月25日、政府対策本部において、5都道県(北海道、埼玉県、千葉県、東京都及び神奈川県)に対する緊急事態宣言が解除されました。3月末から続いた自粛要請は金融業界の転職市場や採用状況にも大きな影響を及ぼしました。 本稿では3月末に弊社HPにて予測した「2019年下期金融人材市場の総括と2020年上期の展望」を振り返りつつ、緊急事態宣言以前、以後の採用動向の変化をお伝えして参ります。まず、ざっくりですが、現状各マーケットの求人動向は下記の通りです。
【1】コロナ禍で一切影響を受けなかった求人ニーズとして再生エネルギーをはじめとするインフラファイナンス、ストラクチャードファイナンス、海外不動産投資の求人が挙げられます。これらは常時ニーズがありました。
【2】投信ビジネスの求人ニーズはさらに著しく減少しました。一方、投資顧問ビジネスの
求人(特に年金ビジネス)は常時ニーズがありました。
【3】富裕層向けの遺言信託のコンサルティングやサービス強化、事業継承にともなうプロフェッショナル人材への求人およびプライベートバンカーの求人ニーズは現在、
半年前と比較してかなり減少しています。
【4】PEファンドの求人ニーズはほぼ下火状態でしたが、この2ヵ月間に、コロナ支援ファンドの立ち上げに伴う政府系ファンドからの求人ニーズが高騰しています。事業再生と事業の持続可能へ向けた地域経済の活動支援を目的とする官製ファンドが積極採用を展開しています。
【5】IPOが減少する状況下、それに伴いVCの求人ニーズも減少傾向です。
【6】銀行、証券、保険ともに一時期、強烈な人材獲得戦争になっていた「Fintech」、「AML」分野の採用ニーズも現状、減少傾向です。
全体を見渡して言えるのは緊急事態宣言以前、転職市場は圧倒的な「売り手市場」でしたが、緊急事態宣言解除後はうって変わって「買い手市場」へと転じたことです。即戦力となるプロフェッショナルへの求人は相変わらず堅調ですが、先行投資となる若手人材の求人が全面的に止まりました。全業種内で若手採用を控える一方で、メガバンクが第二新卒の積極採用を併行しているのは目立った動きのひとつです。
こうした流れは過去にも経験した不景気の特徴とも言えます。2020年年頭には黒字リストラという言葉とともに好待遇で迎えられていたシニア層の採用ニーズはコロナ禍で決定的に減少してしまった感があります。この点は我々の読みが大きく外れた、と言わねばなりません。とりわけ今回、特筆すべきはコロナ禍以前、採用に苦戦していた企業がここにきて、優秀な人材を続々と獲得できているという現実です。
自粛要請下における企業間の採用活動の在り方には大きく二つの傾向がありました。自粛要請中、完全に求人を止めた企業と、積極的な活動は控えながらも、採用を止めなかった企業です。もちろん、後者においても「直接対面」は避け、オンライン会議ツールを駆使したリモート面談が行われるなど、これまでにない環境変化への適応にはさまざまな制約があり、その都度柔軟な対応を求められました。しかしながら、こうした状況下を戦略的にあえて好機と捉え、行動に移した企業も少なからずあったことはお伝えしておきたいと思います。競合が少ない分、いつもより採用活動が有利であったことに加え、「年収よりも安定」を求めはじめた転職者の内的動機の変化を掴んだことも優秀な人材獲得の秘訣となりました。
先行き不透明な現状を奇貨として、自粛要請期間中に戦略的に人材獲得を推進してきた企業の中には緊急事態宣言解除と同時に、「対面による最終面談をセッティング」する意思決定をした会社もあります。まさしく現在進行中で、人材の流動化が行われようとしていると言わねばなりません。ボーナス支給後、「例年以上に退職者が出た」という現実を目のあたりにする会社も数多く出てくるかもしれません。さらに、コロナ禍の下、リモートワーク面談や在宅勤務を受容した今回の経験はこの先、働き方の選択肢や評価基準の見直しの契機になるはずです。それにより、今後、これまでにない新しい採用ニーズが生まれてくることは間違いなさそうです。
KANAEアソシエイツ 代表取締役 阪部哲也