資産運用ビジネスを取り巻く環境の変化に伴い、デジタルマーケティング人材の獲得は運用業界全体の課題と言われて参りました。最近ではコロナ禍の影響を受け、その緊急度がさらに高まったようです。販売会社である銀行や証券が行っていた対面販売を、デジタル販売へ急速にシフトさせる必要が生じたためです。その流れで運用業界においてデジタルマーケティング人材の採用ニーズが高騰しています。ところが現実には、多くの運用会社が人材確保に難航しているようにお見受けしています。これについて私は、「職務内容の明確化と採用ターゲットの再設定による採用課題の改善」をご提案したいと思います。

　昨今の運用会社の採用現場がデジタル人材の採用に苦戦されている原因の一つに、業務内容の全く異なる人材を「デジタルマーケティング」という単一の曖昧なキーワードで総括することがあるように思われます。運用業界では伝統的に「マーケティング」という言葉に「営業」や「販売資料作成」の含みをもたせてきた名残もあり、これが求職者側の認識と乖離するミスマッチの要因になっているのです。現在、運用業界におけるデジタルマーケティング求人のニーズは大別して2種類あります。

　①販売会社向けのデジタル教育ニーズに伴う、デジタルマーケティング人材
　②デジタルプラットフォーム構築に向けたブランディング及びターゲットマーケティングを得意とする人材

　前者①は販売会社が行う投資教育や勉強会を、リアルからデジタルへとシフトするためのサポート業務が中心です。以前は運用商品の勉強会ニーズはリアルな場での紙媒体でのサポートが中心でしたが、特にコロナ禍以後は、顧客から投資教育をデジタルで要望されるケースが増えました。教育プログラムやポートフォリオの分析ツールもデジタル経由のオンデマンド提供のニーズが多数発生しており、緊急度の高い求人ニーズといえます。近年、マルチアセットファンドの「クアトロ」が1000億円突破したピクテ投信投資顧問様が急速に拡大した背景にはデジタル化と教育コンテンツの刷新が大きく影響しています。これは①の領域の人材の活躍に負うところが大きかったといえそうです。

　一方、後者②はターゲティング広告により効果的な顧客獲得を狙う、或いは直販を視野に入れたブランディングやデジタル解析を行って、中長期的にデジタルプラットフォームを構築したいというニーズに基づくものです。

　これら二つの職種は「異なる経験やスキル」を必要とします。だとすると採用ターゲットも異なるので、別職種として募集することが有効といえましょう。

　①のニーズに適応する候補者の一例としては、運用会社とタッグを組み「はじめての投資信託」などのような企画をWEB上で展開するネット証券をはじめとした投信に知見のある販社側のWEBマーケティング人材、或いはデジタルマーケティング人材が挙げられます。実際、金融業界出身者にはバイサイドの人気は根強く、運用会社への就業に憧れる販売会社ご出身の方が一定数いらっしゃいます。十分な情報提供ができれば採用実現性は高まってくるかと思います。

　後者②のニーズに応えられる候補者として挙げられるのはコンサルティング会社や広告代理店、ネット系事業会社や消費財メーカーの経験者でBtoCマーケティングに長けた人材です。こちらの人材獲得競争は金融業界のみならず、どの業界においても激しさを増しており、特にコロナ禍以降、さらに競争が激化している印象がございます。こうした人材は転職に際して、お給料よりもむしろ「自分自身のスキルを理解してくれる上司や同僚のいる職場であること」や「社会的なインパクトを創出できること」などを重視する方も多いようです。結果、BtoC企業の人気が高いので、BtoBtoCである運用会社としては面接に際して採用背景や、候補者への期待についてじっくり説明することが必要でしょう。会社にとってのデジタル化の重要性や本気度が伝われば、改革に携わるやりがいを感じて頂ける可能性があります。変革期といった点では、既にデジタル化が進んでいる企業にはない魅力があります。

　以上、運用会社のデジタルマーケティング人材採用成功へ向けてのプロセスをご提案させて頂きました。もちろん優秀なデジタル人材の採用にはこれだけで十分とは言えず、容易ではないと思われますが、金融業界の発展をミッションとする弊社、KANAEアソシエイツとしては全社全力を挙げてお手伝いさせて頂く所存です。ご連絡をお待ちしております。

　専任コンサルタント　土井徹