KANAE ASSOCIATES

TEL 03-3431-7700

最新情報News

エンベデッド・ファイナンスによる求人市場の変化

 世界的な一大潮流として注目されるエンベデッド・ファイナンスが加速しています。エンベデッド・ファイナンスとは「金融以外の事業を展開する非金融事業が、既存サービスに金融サービスを組み込んで提供すること」と定義される、いわゆる「組み込み型金融」と呼ばれるものです。
その先駆者としては、
・アマゾンキャッシュ、アマゾンペイなど組み込み型決済サービスで顧客の囲い込みを戦略的に行ったアマゾン社、
・ゴールドマン・サックスとの連携により独自クレジットカードの発行が話題となったアップル社、
・グーグル・マップ上で駐車料金の支払いを可能にしたグーグル社
などが想起されます。しかしながら最早、エンベデッド・ファイナンスはGAFAに代表される巨大企業の専売特許ではなくなっています。私たちの想像を上回るさまざまな業態、業界のサービスの中に組み込まれ、現在進行形で進化しているからです。

 身近なところではECサイトなどで活用されるBNPL(Buy Now、Pay Later)に代表される後払いシステムがわかりやすい例でしょう。コロナ禍が「今買って後で払う(=BNPL)」の流れを大きく後押ししたといわれています。ネット上で買い物をする際、決済のタイミングをずらすことで顧客の購買意欲の機会損失を減少させたばかりか、審査を組み込み型金融が担うことでクレジットカードを持てない層を広く取り込み、商機を見出した企業も少なくありませんでした。
 遡れば、KDDIが三菱UFJ銀行と提携し、じぶん銀行を開設したり、三井住友銀行がユニクロ通販UNIQLO Payを運用したり、みずほ銀行がLINE銀行を、野村證券がLINE証券を運用しているなどもエンベデッド・ファイナンスの一例です。最近では関西国際空港の南海鉄道の改札口に乗車券の代わりにクレジットカード決済で通過できるレーンが設けられ、この決済基盤を開発したのが三井住友カードとビザ・ワールドワイド・ジャパンであったと報じられたことも記憶に新しいと思います。

 この一大潮流の呼び水となったのは言うまでもなく、スマートフォンの普及に伴うモバイル化でした。フィンテックのスタートアップはモバイルへの最適化と特定の金融サービスへの特化(アンバンドル化)によっていかに良質な顧客体験を実現させるかに注力したユーザーの獲得合戦でした。それが手数料の引き上げや機能の高度化に伴い、機能面での差別化が難しくなり、徐々に金融サービスのコモディティ化が進み始めます。その結果、近年第三の波といわれる、非金融事業者による「リバンドル化」への関心が高まっているのです。
金融サービスの担い手が既存事業を通じて「顧客接点」を持つプレイヤーへと転じる中、その役割は大きく三分割されるようになりました。1つは非金融事業者である小売業、通信業など多くの顧客接点を持ち、金融サービスを消費者へ提供する事業者。2つ目は金融ライセンスを持って金融商品やサービスを組成する事業者。そして3つ目はライセンスホルダーと顧客接点を持つ非金融事業者の間に入り、システムで両者をつなぐ、イネーブラーです。

 アンバンドリング、リバンドルとは機能を切り離し、分解して、再構築することを意味します。ライセンスホルダーやイネーブラーとの関係性によって、サービスの組み合わせは無限に広がるわけですが、ここで注目したいことはやはり、これまでの伝統的な金融機関の役割と立ち位置の変化です。
 従来、金融機関が得意としてきた決済、貸付、保険、投資、銀行という5つのサービス領域で表立ってサービスを提供するのではなく、「裏方」としてシステムや仕組みづくりを担い、さまざまな業界、業態のサービスを支えるプラットフォームに転じているのです。現状は決済サービスの提供が先行していますが、保険や融資、資産運用の領域でもプラットフォーム化を標榜した自社のスーパーアプリ開発も次々に発表されています。さらに国内のフィンテック企業の多くがエンベデッド・ファイナンスの可能性を見越してBaaS「Blockchain as a Service」事業を立ちあげていることも見逃せません。

 こうした背景から求人の要件や求職者の選好にも変化が見られるようになっています。
 求人サイドの求めるスキルや経験は、単にAPIによる機能提供にとどまらず、外部事業者とのサービス連携による新たな顧客接点の創出、ユーザー起点でのプロジェクト企画推進、顧客活動に基づく内部信用分析、リスク分析、データ解析、上流から下流までの全工程におけるサービス提供のエンゲージメント実現など、実に多岐にわたります。これまでゲートキーパーに喩えられることが多かった銀行の役割がデジタルアドバイザーの役割を期待されている向きもあり、今後は組み込み型金融の多数の取引を集積し、最適化に向けたサービス開発、リスク分析に関連する求人も増えそうです。また新しい金融サービスの創出にチャレンジする事業者を支援するプレイヤーとして陣頭指揮を執る、サービス立ち上げ責任者のポジションも少なくありません。
 求職者においては転職先の事業内容、事業規模を吟味した上で、新たなプロジェクトがご自身のキャリアをエンハンスできる機会と判断されれば、喜んで応募される印象です。既存のサービスや会社の風土に縛られない、新たな事業の立ち上げに参加できるという、ある種の熱狂が感じられます。喩えるなら、2000年代初頭に非金融事業者が銀行免許を取得し、銀行業務を新規立ち上げ参入した際に、多くの大手金融機関の経験者が転職された、当時の熱量に近いものを感じます。

 新しい金融サービスの創出にチャレンジする事業者を支援するプレイヤーとして活躍できる、またとない機会にご興味を持たれた方はぜひご相談ください。

 コンサルタント 朝田恒平

現状に満足しない、志あるプロフェッショナルのために。 Copyright © KANAE ASSOCIATES Co.,Ltd. All Rights Reserved.