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成長著しい国内インパクト投資の動きと、転職市場への影響

 経済価値だけではなく、社会的課題解決を目的とし、ポジティブで測定可能な社会的・環境的インパクトを創出する意志をもった案件への投資・資金提供を指す、「インパクト投資」が2021年あたりから国内で急速に拡大しています。

 インパクト投資はもともと、2006年の国連責任投資原則(PRI)の中でESGを巡る課題を投資の意志決定プロセスに組み込むことを提唱したことに遡ります。その後、2015年のCOPパリ協定で気候変動に対する発展に向けた方針に、資金の流れを適合させることが掲げられるなどの動きがあり、2017年には国連環境計画金融イニシアティブのポジティブ・インパクト金融原則で、企業がSDGsの達成への貢献をKPIで開示し、金融機関はそのプラスの影響を評価して資金提供するという流れが定着していきました。
 インパクト投資とESG投資との違いは何かと問われるなら、インパクト投資においては、投資主体がポジティブなインパクト創出の「意図」を有しており、かつ投資主体が「インパクト測定」を実施しているという要件が存在することが明確な違いとして挙げられます。また情報開示の枠組みなども確立される中、 ネガティブ・インパクトを抑える目的が強いESG投資に対して、インパクト投資はポジティブ・インパクトの最大化に主眼が置かれていることが特徴的です。いずれも社会へインパクトを与えることは共通していますが、やむを得ず出てしまうネガティブ・インパクトの最小化や、ニュートラル化を目指すのと、ポジティブ・インパクトの最大化を志向するのでは、アプローチが異なるといえます。

日本国内におけるインパクト投資の動向

 一般財団法人社会改革推進財団(SIIF)は、2021年度末時点の日本におけるインパクト投資残高は1兆3,204億円であり、前年度の投資残高の5,126億円から2.5倍へ急成長したことを報告しています。国内では2017年に新生企業投資社による「子育て支援ファンド」の設置、同じく2017年に笹川記念財団による大型の「アジア女性インパクトファンド」の設立などが先駆的に実例を作っていましたが、その後数年間、業界における大規模な取り組みはそれほど見られませんでした。 
 この1,2年のうちにインパクト投資が急速に成長した背景の一つに、2021年11月に発表されたGlobal Steering Group for Impact Investment (GSG)国内諮問委員会による「インパクト志向金融宣言」が挙げられます。この宣言の発足時点で都市銀行、地方銀行、信用金庫、ベンチャーキャピタル、保険会社など多岐にわたる金融機関が21社賛同しました。 以後、FinTechベンチャー等の新規参入により2022年11月までの1年間で署名機関は42機関の倍増に、賛同機関も5機関から10機関へと拡大しています。署名機関は、各機関においてインパクト志向の投融資およびインパクト測定・マネジメント (IMM)を実施するだけでなく、署名機関が定期的に集まりベストプラクティスや推進上の課題を共有しながら議論を行い、日本の金融業界がインパクト志向の投融資を自律的・持続的に発展させていく方針です。 
 また岸田首相が初の施政方針演説(2022年1月17日)で新たな官民連携の実現方法、民による公的機能の補完の手段として、2023年のSDGs実施指針の改定に向け、「インパクト投資の推進など幅広い官民連携を一層深化させるのが重要だ」と述べたことも、インパクト投資急成長への流れを後押ししました。政府の新しい資本主義のグランドデザイン、および実行計画として社会的起業家への投資、官民ファンド等によるインパクト投資を推進するという発表の影響もあり、今後さらなる動きが見込まれます。 
 ESG投資やSDGsなど、「サステナビリティ」といった概念を基盤とする具体的活動が、企業間のみならず個人の間で近年かなり浸透してきたことは言うまでもありませんが、企業にとって、金銭的なリターンと社会的ポジティブ・インパクトの二つの目標を同時に達成することのハードルは容易ではありません。一方で、他社が手掛けない分野での成功は競争優位性を高め、社会的課題の解決はブランドイメージの向上にも結びつくため、その企業の成長性に良い影響を及ぼすと考えられます。あるいは社会的課題の解決によって、高い成長が期待される企業を通じて経済的利益を目指せることなどから、インパクト投資への取り組みが増加していることが挙げられます。
 さらに特筆すべきは、インパクト投資の投資対象の多様化です。とりわけ注目したいのが上場株式ファンドの登場でしょう。これまでのインパクト投資の多くはプライベートエクイティやプライベートデット等、非上場企業やNPO法人への投資が中心でしたが、近年上場株式を通じたインパクト投資戦略が生まれたことで、インパクト投資をより身近なものとして感じることができ、社会的課題の解決に資金が流れやすくなってきていることは見逃せません。
 地域金融機関や信用金庫、FinTechベンチャー、学校法人等の参入も相次ぎ、2023年以降もますます拡大してくことが予見されますが、同時に企業活動の結果として、どれだけ社会や環境に変化や効果を与えたのかを示す指標や、指標における目標値の設定、測定の正確性、インパクト指標と財務価値をどのように結び付けて提示すべきか、といった課題についても、今後考慮する機会が増えてくるものと思われます。

求人動向への影響

 このような流れを受け、求人動向にも変化が見られるようになっています。弊社も今年、インパクト投資に関連、類する募集求人が飛躍的に増えた1年となりました。また、インパクト投資という明記がないまでも、脱酸素/社会インフラ整備/シルバー介護/ヘルスケア領域/子育て支援領域など社会的貢献の意図を持ち、かつ持続可能性な社会を目指す投資、またそれらに関連した「新規事業開発」を掲げる求人案件がこの1~2年で飛躍的に増加しています。こうした求人案件の候補対象となるのはPE投資やインフラファンド投資の経験者ですが、ほかにもスタートアップ投資などの経験、若手であれば、企業のIPO支援、プロジェクトファイナンス等を通じた企業分析、事業会社における新規事業開発といった経験をお持ちであれば歓迎される傾向にあり、門戸が広がってきているといえます。
 先日、私がお声がけした候補者様の中に海外の金融機関でインパクト投資に関する業務経験をお持ちの方がいらっしゃり、「ようやく日本でもインパクト投資の動きが広がるようになったのだな、という印象です」と仰っていたのがとても新鮮でした。グローバルではすでに順調に成長している段階というインパクト投資ですが、日本国内においてはこの1〜2年で急速にその名称が広まり、「これから成長していく段階」であることは間違いないようです。今後、インパクト投資の効果や評価が進められる中、求められる人材の要件も刻々と変化していくと思われます。変わりゆく動向を引き続きウォッチしつつ、最新の情報をお届けして参ります。ご興味を持たれた方は、ぜひ一度ご相談ください。

 コンサルタント 高田純

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