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プロダクトガバナンス強化による、コンプライアンス領域の求人拡大

 近年、金融庁が金融機関に対し「プロダクトガバナンス」の徹底を迫る動きが頻繁に見受けられるようになっています。今回のVOICEでは、この「プロダクトガバナンス」という言葉を金融庁が持ち出した狙いはどこにあるのか、そしてそのことが大手金融機関の採用にどのように影響しているのか、紐解いて参りたいと思います。

作り手のみならず、売り手にも求められるようになった「プロダクトガバナンスの徹底」

 先頃、金融庁が公表した2023年5月版「資産運用業高度化プログレスレポート」内に「プロダクトガバナンスの強化」の一項目が設けられており、以下のように記載されています。
―――わが国における「プロダクトガバナンス」は、主に、資産運用会社が、自身の設定・運用する商品について①組成段階から、期待リターンが投資家の負担するコストに見合ったものとなっている等を検証し、②組成後も想定した運用が行われ、コストに見合うリターンを提供できているかどうか、③商品に合致した運用が継続可能か等を定期的に検査する等、個別商品ごとに品質管理を求めるものである―――
 このレポートは毎年公表されるわけですが、昨年2022年度5月版を振り返ってみますと、「主に」という言葉はなく、主語が「資産運用会社」に限定されていることに気づきます。ここで注目すべきは、もともと投資信託等の金融商品を作る資産運用会社が果たすべき役割を指すものとして使われていた「プロダクトガバナンス」という言葉が、最近では商品を販売する証券会社や銀行等に対しても求められるように変わりつつあるということです。

 それを裏付ける文書として2022年に先述のレポートが公表されてから僅か半年後、首相の諮問機関である金融審議会傘下の作業部会が発表した「顧客本位タスクフォース」(2022年11月)が挙げられます。これに拠れば、
―――(略)資産運用会社等の金融商品の組成者・管理者について、金融グループ内における位置づけを明確化した上でのプロダクトガバナンスや独立性の確保、顧客の最善の利益に適った商品組成・提供・管理を確保する枠組みであるプロダクトガバナンスの実践、組成会社・販売会社それぞれについて求められるべき機能及び役割の明確化を実現していくために必要な、「原則」の見直しやルール化に向けて、検討を深めていくべきである―――
とあります。プロダクトガバナンスを実践する主体として作り手と売り手を対等に並列している点、さらにプロダクトガバナンスの独立性を明記していることはやはり見逃せません。

仕組債のこと

 2022年12月、金融庁が全ての地方銀行とグループ証券会社を対象に仕組債など金融商品の販売実態について一斉調査に乗り出したことは未だに記憶に新しいことと存じます。先述の「資産運用業高度化プログレスレポート2022」では、プロダクトガバナンスの問題と併せ、仕組債にフォーカスする章立てが設けられていました。仕組債は「デリバティブを組み合わせた債券」と説明されることが一般的です。ハイリスクハイリターン商品と言われることもありますが、金融庁は先のレポートで既に「ハイリターン」という評判に疑問を呈し、あくまで商品組成側に向けに指摘するという姿勢を維持しつつも、顧客ニーズを軽視した販売実態について間接的に問題視していました。
 さらに仕組債は取扱金融機関側から見ると、短期間で収益を上げやすいため償還済み顧客に対し、繰り返し販売する回転売買類似の行動に対する誘因が働きやすい商品性をも指摘しています。仕組債は投資信託等と違い、商品を販売する証券会社が自社で組成するケースがあるため、実際にはEB債を組成できる人材や体制を整えている金融機関は人的リソースに余裕のある一部大手証券等に限られます。仕組債等の高リスク商品をグループ傘下の証券会社で販売し、グループの収益源としていた地銀は少なくありません。仕組債を含むトレーディング収益が営業収益全体の8~9割を占める地銀系証券会社もあるほどです。
 金融庁が調査した地銀の22年3月期の主な金融商品の販売構成を見ますと、グループに証券会社を持つ27行の地銀では、仕組債の販売が全体の4分の1にあたる23%を占めております。全国地方銀行協会によると、2021年度には、加盟行62行のうち57行が総額約9500億円の仕組債を販売。そのうち60歳以降の高齢者の退職金運用を目的に、仕組債を販売し、その後損失が発生するケースが散見されます。顧客からは金融機関側が商品の仕組みを十分に説明していなかった等の苦情が、地銀27行で約110件発生している状況でこうしたクレーム対応は今後も増加することが予測されています。

 翻って、金融庁は単に仕組債単体の問題としてではなく、顧客本位の商品組成・販売を無視した金融商品全般および投資信託全般で起こりうると睨んでいることがうかがえます。金融業界の商慣習全体が抱えうる普遍的な問題への切り口として「仕組債」という極めて特殊性の強い、しかし多くの金融機関で収益の柱ともなっている商品をいわば象徴的に持ち出すことでコーポレートガバナンスの課題を総点検する方針を打ち出しているとも読めます。それに伴い、今後地方銀行ののみならず、金融機関全体として仕組債の販売が難しくなる可能性が十分に考えられます。 
 もちろん、仕組債の取扱いを停止したら収束なのではなく、今後の規制強化と抜け穴探しの『いたちごっこ』を防ぐためにも、その事業者がなぜ仕組債の販売を開始し、営業活動が一定期間に渡って継続され、経営陣がそれをなぜ許容していたのか、三線管理(現業部門、管理部門、内部監査部門という3部門の管理)の観点からも積極的に追及していくのが今後の金融庁のスタンスといえます。

コンプライアンス部門の採用強化で目指す、顧客本位の営業体制

 こうした一連の流れに伴い、大手金融機関中心にさらなる顧客本位の営業体制強化に向け、コンプライアンス領域での人材獲得が必至となっています。実際、リテールコンプライアンスの企画、訴訟・ADR対応、顧客・営業店からの相談対応などの求人案件が徐々に増加傾向にあります。

 特筆すべきは採用対象の拡大です。
 コンプライアンス領域の専門職はこれまで、「営業職として長年第一線で活躍していた方がその後のキャリアパスで配属されるポジション」という傾向にありました。ところが最近ではプロダクトガバナンスの独立性が求められるため、従来の組織上の構造改革も課題視されつつあります。社内の新陳代謝を促すという期待感もあり、コンプライアンス業務の経験がない若手でも大手証券会社や地方銀行、ネット証券で仕組債の販売をしていた方など、仕組債をはじめとする金融商品の特性を理解している方が歓迎される傾向にあります。
 また、ネット証券などのコールセンターのSV経験者、弁護士資格保持者、パラリーガルご経験者などにも門戸が拡大しています。とりわけ、リテールコンプライアンス企画の求人などはコールセンターでのクレーム対応経験者を歓迎する動きもみられます。この背景には苦情の分析に基づく商品企画はもとより、販売時の商品説明時に予想されるリスク回避への対応の視点が今後ますます重要視される可能性が高いことが挙げられそうです。

 このようにコンプライアンス領域の専門職として若手を育てたいという機運が高まっているため、「ゆくゆくは専門性を身に着けたい」「企画職へ転身したい」とお考えの営業職の方にとってはまたとないチャンスと言えるでしょう。少しでもご興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度ご相談ください。

 コンサルタント 佐藤史織

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