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エンゲージメント投資という選択肢。投資銀行、戦略ファーム、PEファンドの方のネクストキャリアの可能性について。
エンゲージメント(株主と企業との目的を持った建設的な対話)の浸透
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2023年3月30日に公表した「2022/23年 スチュワードシップ活動報告」によると、2022年1月~12月にGPIFの国内株式運用受託機関によって実施されたエンゲージメントの社数は合計で946社(時価総額ベースでは94%に相当)、対話件数は6千件を超えている、とのこと。さらにさかのぼって過去6年間のエンゲージメントの社数・件数の推移をみると、2020年の新型コロナウイルスが蔓延した年を除き、増え続けていることが分かります。
またGPIFが毎年実施している「機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果(以下、「アンケート」という)」の2023年5月17日発行の第8回版を見ていきますと、質問「当法人(GPIF)の国内株式運用受託機関で、貴社の中長期の企業価値向上の観点から『有益な議論や貢献、または好ましい変化を見せた機関』をご記入下さい」に対し、5割以上の上場企業から「有益な議論や貢献、または好ましい変化を見せた運用機関」があると回答されました。GPIF宮園理事長も「多くの企業の皆様に運用受託機関によるエンゲージメントを好意的に受け止めていただいている」とコメントされています。エンゲージメントが日本において企業から好意的に受け止められ、着実に浸透してきているといえそうです。
エンゲージメントの「テーマ」と「関わり方」について
GPIFの2023年アンケートで「有益な議論や貢献をしたGPIFの国内株式運用受託機関がある」と回答した上場企業への「有益な議論や貢献の『内容』」を問う質問の回答として、「ESG」の58.2%よりも「経営・事業戦略」の70.7%の方が上回っていました(複数回答可の質問)。 また、2021年の同アンケートでもアクティビストやエンゲージメントファンドとの対話テーマを問う質問の回答において「経営・事業戦略」が63.9%、「資本政策」が42.0%、「環境(E)」8.4%、「社会(S)」5.7%、「ガバナンス(G)」28.3%となっていました(複数回答可の質問)。エンゲージメントの”テーマ”について、新聞等の報道ではその内容の多くがESGに関連するものをとりあげていますが、アンケート結果からは、企業にとっては「経営・事業戦略」が「ESG」と同等またはそれ以上にテーマとして有意義であると考えられている傾向にあるといえます。
2021〜2023年のアンケートのフリーコメント欄には、以下のような記述がございます。
・当社の取り組み・考え方等の確認に終始するような対話でなく、持続的な企業価値向上に向けた実効性のある改革・改善を推進するための示唆を与えていただけるディスカッションを期待したい(2023年)。
・当社事業の本質的な企業価値や長期的な戦略にもスポットを当て、資本市場から見た当社事業戦略への改善すべき内容や事業環境に関するご意見など、建設的なディスカッションを活発に出来るような取材内容が増加することを期待している(2023年)。
・対話においては当社の戦略やマテリアリティ等について、単なる質問・確認だけでなく、当社の企業価値向上につながるような、時に厳しい忌憚のないご意見、ご示唆をいただけることを期待する(2022年)。
・企業に対し中長期的な視点で、事業戦略やポートフォリオの在り方について提言し、企業を動かす原動力となってくれることを期待したい。(2021年)
エンゲージメントにおいて「確認」や「質問」に終始するのではなく、「示唆を与えてほしい」「提言してほしい」「改善すべき内容や事業環境に関する意見がほしい」といったことが、上場企業から投資家に対して期待されているといえます。
エンゲージメント投資について
ここまでをまとめますと「上場企業は株主に対して『経営・事業戦略のテーマの提言をして欲しい』と期待している」といえます。そこで今回で注目したいのは、常日頃から投資先の上場企業の企業価値向上のために積極的に対話・コンサルティングを重ねるエンゲージメント投資の存在です。エンゲージメント投資専業会社や、アセットマネジメント会社で募集がございます。投資銀行、戦略ファーム、PEファンドでご活躍の方のネクストキャリアとしてエンゲージメント投資業務をご検討いただくにあたり、よく比較されるPE/戦略ファームとの違いを見て参りましょう。
PEとの比較
投資家としてコンサルティング活動を行う点では同様ですが、投資対象がPEファンドは「未公開株」であること、エンゲージメントファンドは「上場企業」であるという違いがあります。社会の公器たる上場会社への投資・コンサルティングによるマクロ経済へのインパクト、社会的な貢献度の大きさにやりがいを感じていただけるかと思います。 また、発行株式に対し、PEファンドは原則マジョリティを獲得しますが、エンゲージメントファンドはマイノリティ投資となります。マジョリティ投資となると、場合によっては企業支配権を有したオーナーとして時には経営陣を外部から送り込みながら改革推進をしますが、エンゲージメントファンドの場合、上場を維持し、現在の経営陣のまま経営支援を行います。企業価値向上という共通の命題の下、投資先の上場企業の経営者と長期スパンで信頼関係を構築していく、パートナーとしての役割を担うことになります。
戦略ファームとの比較
企業の分析と戦略立案を実施するという点では同じですが、一般的な戦略コンサルティングファームとの違いは何といっても、エンゲージメントファンドは「株主である」という点です。分析判断力と専門性の高い戦略立案をあくまでも第三者の立場で行うコンサルティングファームに対し、エンゲージメントファンドは株主ですので企業と同じ目線でリスクも取り、株価向上という命題のもとに企業変革を求められるため、投資先企業の経営の意思決定により深く、ダイレクトに関わることが出来るかと思います。
最後に
弊社がエンゲージメントファンドへの転職をご支援した方は「エンゲージメントファンドがは株式市場に残っている数少ない成長分野であり、まだファンド数が少ない。投資先や投資家にメリットや哲学を広めていく面白みがあると思う」とコメントされていました。これまでのスキルを活かしながら、さらにご自身のキャリアの幅を拡げる選択肢になり得るエンゲージメント投資業務という選択肢にご興味を持たれた方はぜひ一度、KANAEアソシエイツにご相談ください。
2023年10月 土井 徹