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顧客本位の業務運営を推進する、お客さまの声(Vo C)活用の拡がり

 「顧客本位の業務運営に関する原則」を金融庁が提言した2014年以降、フィデューシャリー・デューティーの重要性が問われるようになって久しいですが、近年では金融機関のデジタルシフトが進むにつれ、お客さまの声(Voice of Customer *以下、Vo C)を起点としたビジネス戦略策定が求められる傾向が顕著になってきました。本稿では顧客本位の業務運営とお客さまの声の関係性が高度化する中、Vo Cを顧客戦略へと転換させる意義と、それに伴う新たな人材ニーズの増加について述べて参ります。

 金融審議会が、顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)」について、2016年12月に公表した報告書を遡りますと、以下のような記述がありました。

 「金融事業者が自ら主体的に創意工夫を発揮し、ベスト・プラクティスを目指して顧客本位の良質な金融商品・サービスの提供を競い合い、より良い取組みを行う金融事業者が顧客から選択されていくメカニズムの実現が望ましい。そのためには、従来型のルールベースでの対応を重ねるのではなく、プリンシプルベースのアプローチを用いることが有効であると考えられる」

 ここで興味深いのは詳細なルールや規則を制定するルールベースのアプローチを推奨するのではなく、原理原則を重んじるプリンシプルベースのアプローチが採用されたことです。言い換えるならば、「金融事業者は自らかみ砕いて理解し、顧客本位の良質な金融商品・サービスの提供を競い合うことによって、より良い取組みを行う金融事業者が顧客から選択されていく仕組みの実現を図る」よう、促されていました。
 近年のDX化に伴い、メガバンクをはじめとする銀行においては顧客の店舗離れが進み、ネットバンキング等での顧客接点へという、デジタルシフトが加速度的に進みました。とりわけ、スマートフォン、SNSの普及に伴い、お客さまの声はより身近で、よりダイレクトな接点となっています。金融機関が「顧客本位の業務運営」に基づく「顧客戦略」への転換を図る上で、Vo Cが今後ますます強い影響力を及ぼす原資になることは間違いありません。
 言うまでもなく、顧客本位とお客さまの声は非常に密接に関係しています。顧客本位のアプローチとは、顧客のニーズや要望を中心に据え、業務を展開し、顧客満足度の向上をはかるサービスの改善や製品の開発を目指すものだからです。もちろん、これまでも顧客からの声やフィードバックを収集し、それらを分析してサービスや製品の改善にVo Cを活用する取り組みはありましたが、顧客接点と関係性が高度化する中、改めてVo C活用の見直し、再考が求められる段階といってよいでしょう。そのため、各銀行とも専門部署を設けるなどして、Vo Cを経営戦略に盛り込む運営に本腰を入れ、動き始めています。

 こうした状況を背景として、メガバンクを中心にVo Cを起点とした求人案件が増えていることも近年の新しい動きといえます。特筆すべきは、これまでVo C活用はともすれば、クレーム処理など、やや後ろ向きの仕事を想像される方も少なくありませんでしたが、もはや大きく異なります。Vo Cから顧客の潜在ニーズ、インサイトをくみ取り、新たなサービスの開発や改善を図ることは経営に直結する課題解決につながります。そのため、より戦略的、創造的、建設的なビジネスセンスが求められている、ともいえそうです。
 それは仕事内容にも具体的に現れており、従来通りのVo Cの収集・分析のみならず、「顧客本位の」ビジネス戦略や企画立案、施策の推進など、経営層や他部署を巻き込んだ案件が増えています。 一例を挙げれば、顧客ロイヤリティの獲得・向上、顧客満足度向上のための新施策、カスタマーエクスペリエンスの向上など具体的な命題が求人票に記載されています。 当然、こうした課題にはオンラインバンキングやモバイルアプリの改善、顧客サポートの強化、ローカルコミュニティへの貢献などが含まれます。また金融機関は、つねに市場調査や顧客フィードバックを活用して、顧客のニーズや市場の動向を把握し、それに基づいて戦略を策定しますが、単なる分析にとどまらず、顧客が潜在的に求めるサービスや商品を発見し、新しいアイデアを積極的に取り入れ、サービスを改善し、新たな提供をすることで市場拡大を狙う。そうしたポテンシャルが求められているといえます。  
 さらに「顧客本位の業務運営」に求められる原理原則に基づくなら、単なる回転売買や利益相反の管理といったルールベースにとどまらず、顧客にとって「適切な動機づけがなされているか」「誠実で公正な情報開示がなされているか」という目線で顧客との信頼関係を築く必要があります。透明性のある情報提供や適切なコミュニケーションが重視される傾向はますます強まるため、顧客に対して正確で明確な情報を提供し、信頼を損なう行為を避けることで、顧客の信頼を獲得してはじめて持続可能なビジネスに結びつく。このように「Vo C活用」の中に期待されている要件が必然的に増えている、といわねばなりません。

 とはいえ、すでにVo C活用が進んでいるサービス業や製造業に比べ、金融機関はこれからの領域が大きいこともあり、サービス業や小売業の本部でVo C分析や商品設計のご経験をお持ちの方が重宝される傾向にあります。異業界から金融業界へ転職された方の動機を決定づけたポイントはおおむね、下記に集約されます。

・自らイニシアティブをとり、他部署や経営層に働きかけられる面白さ
・市場調査のデータベースの膨大さと、社会に与える影響力のインパクトさ
・黎明期だからこそ、成長の伸びしろがある
 
 ご興味をもたれた方、「我こそは」と思われた方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度、ご相談ください。

 コンサルタント 畑山良太

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