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年収よりも「働き方の自由度」を優先する世代の台頭

 2024年度、大手金融機関の転職市場は前年に引き続き、中途採用活況の一年でした。
 メガバンクだけで合計1200人以上の採用が決定しています。銀行、信託、証券、保険、どの領域においても大手の採用が増えた分、中堅中小企業が採用しにくくなっている現状もありますが、特筆すべきはこの数年間で大手金融機関内定後の離職率が顕著に低くなってきていることです。
 離職率が下がる背景として挙げられるのは金融機関における人的資本への取り組みの成果もさることながら、オープンワークをはじめとする、「社員クチコミ」を見てから求人応募できる転職サイトの普及が大きく影響していると思われます。登録しさえすれば、気になる企業の社員あるいは元社員の書き込み情報を誰もが自由に閲覧できるようになっているため、企業のよい面も悪い面も可視化できます。同じ企業であっても、部署によって社風や制度が異なるケースがあることも一目瞭然です。従来であれば、入社後の躓きになりえた「こんなはずではなかった」という過度な期待が払拭され、入社前に職場の現実を把握できるのは求職者にとっても企業にとっても大きな利点だと思います。
 またジョブ型採用の定着も離職率の引き下げに貢献しています。メンバーシップ型採用のもと非連続なキャリアに甘んじる必要がなくなり、優秀な人材であれば入社時点で自身の職能をさらに専門的に高められるジョブ型を選択することが可能になったため、これまでは転職理由の筆頭に挙がっていた「働き方が合わない」「キャリアを尊重してもらえない」「のぞまない転勤や異動」などに代表される、いわゆる不満が起点となる転職が以前より減りました。これはスペシャリストを迎え入れるうえで、企業側が専門性に相応する高い年収や処遇を充分に配慮し、採用制度を改善した効果とみるべきでしょう。

 ここ数年、フィンテック黎明期にベンチャー企業へ転職した人や、大手証券会社からIFAへ転身した人が再び大手金融機関へ戻ってくるケースが増えているのも特徴的です。こうした動向が目立つようになってきたのは、ベンチャーへ転職せずとも、大手企業内で新規事業を立ち上げ、チャレンジできる環境になってきているからです。

 とはいえ、注視すべきは高い年収よりも「働き方の自由度」に重きを置く若手が増えていることです。コロナ禍以降、定着したリモートワークをはじめとする働き方の変化はとりわけ30代の共働き世帯と親和性が高いようです。彼らの多くは年収が100万円上がることよりも、家事分担や子どもの送り迎えのしやすさを含め、従来とは異なる働き方の自由度を求めています。かつては人気職種のひとつであった、バイアウトファンドやM&Aの人気が下火になってきているのもこうした働き方の意識の違いが関係していると言えそうです。「フルコミッションで2~3年だけ続く年収1800万円を求めるよりも持続可能な世帯年収1500万円のほうがよい」という理由で転職先を選ぶ若手が少なくないからです。35歳前後で世帯年収1500万円を超える共働きの夫婦にとっては、年収よりも働き方の自由度を提供してくれる企業のほうが魅力的な選択となります。彼らのニーズに対し、柔軟に応えてくれるようなら、大手金融機関よりも中堅中小企業を選ぶ充分な動機となり得るというわけです。

 今日日「部長クラスの人材を採用するより、アソシエイツクラスの人材採用が難しい」という声をよく聞きます。ひとくちに「アソシエイツクラス」と言っても、30~40歳くらいまでの人材を指す場合、世間一般にいわれる「Y世代(ミレニアル世代)」と容易にペルソナを設定してしまうこと自体、落とし穴が潜んでいると言わねばなりません。たとえば、社会人になった年次、新卒入社で配属された部署、住んでいるエリア、子どもの年齢などによっても働き方に対する価値観はまったく異なります。ひとりひとり、いま抱えている属性によって転職に求める要件の優先順位も変わってきます。
 実際、2008年のリーマンショック直後に新卒で入社した人が2025年に40歳となっているわけですが、30代前半は「ゆとり世代」とも称され、人材不足の売り手市場で社会人として迎え入れられています。「至れり尽くせり」の処遇が当たり前という採用姿勢を企業側も長らく容認してきており、滅私奉公が当たり前だった昭和世代、就職氷河期を経験した部長、課長クラスから見れば、隔世の感があるはずです。

 高額な年収を提示したにもかかわらず、内定辞退されたなら、そこには採用人事が知り得ない、彼らが優先したいライフスタイルにおける意識のズレがあったかもしれません。場合によっては思いもよらない理由が潜んでいる可能性もあるでしょう。

 ともすれば、採用側の部長の年収より世帯年収の高い若手のライフスタイルをイメージすることは容易ではないかもしれません。妻も夫も同等にキャリアを維持するために最優先されるのは「もっとよい、自分らしい働き方」です。不満があるから転職するのではなく、現状に満足しているけれど、もっと高い満足を求めて転職する。権利として一方的に自由を求めているわけではなく、自由を許容してもらえるなら、責務を果たす使命感も強く、貢献度は頗る高いことが特徴的です。ここを見誤ると、採用は難しいと言わねばならない、リアルな現実があります。

 内定辞退のほんとうの理由から見えてきた、こうしたアソシエイツ世代の実像や採用戦略を相談したいという人事採用ご担当者がいらっしゃいましたら、私どもにぜひ一度、ご連絡ください。

 KANAEアソシエイツ 代表取締役 阪部哲也

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