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市場拡大基調の不動産セキュリティトークン。その波及効果と求人ニーズ
2021年7月に国内初となる不動産セキュリティトークン(以下、ST)が発行されてから、約3年半が経過しました。(黎明期おけるSTが金融市場に与えたインパクトについては過去のVOICEでも「STがもたらす、新たな市場創出と熾烈な人材争奪戦」にてお伝えした通りです。)この約3年半を振り返ると、取得時鑑定評価額ベースでは約3,400億円、ST発行総額ベースでは約1.483億円まで市場が拡大しており、STビジネスが着実に実績を積み上げていることが分かります。
不動産STとは、ご存じのように分散型台帳技術などのデジタル技術を活用して発行・管理される不動産ファンドの投資持ち分を、ブロックチェーン上で管理移転を可能にした金融商品(有価証券)のことで、とりわけ2023年の半ば頃から、市場規模の拡大が加速されました。この流れはいまなお堅調であり、これまでの不動産投資の常識を次々に刷新していく勢いで、さらに加速する可能性が見込まれています。
昨年3月、世界最大級の資産運用会社ブラックロックが、イーサリアム・ブロックチェーン上で米ドル建て機関投資家向けデジタル流動性ファンド(BUIDL)を正式に立ち上げたことで、いよいよトークン化資産(RWA)の本格的な普及が現実味を帯び始めたとして、世界中の投資家が注目を集めたことは記憶に新しいことと思います。
日本でも、この潮流に先駆ける形で、2021年に三菱UFJ信託銀行がデジタルアセット発行・管理基盤「Progmat」を活用し、国内初となる公募型不動産STの発行を実現しています。その後も、同信託銀行は累計31件の公開案件を手がけ、国内トップの実績を誇るとともに、デジタルアセット分野のフロントランナーとして市場を牽引し続けています。
さらには、2024年の税制改正も追い風となりました。特に、不動産STを含むST全般について、元本の払戻部分が非課税と明確化されたことに加え、税務面のルール整備が進んだことで、確定申告時の取り扱いがこれまでよりもわかりやすく、簡素化されつつあります。これにより、個人投資家もSTをより身近な金融商品として捉えやすくなり、市場拡大に向けた大きな転機となっています。
今年3月には三井物産デジタル・アセットマネジメント、新生信託銀行、SBI新生銀行、BOOSTRYが連携し、不動産を裏付けとしたSTの公募型発行が発表されました。対象は、都心部の賃貸マンションやオフィスビルなど、約63億円分の複数不動産で構成されたファンドです。ブロックチェーン基盤「ibet for Fin」が活用されており、投資家に対して高い透明性と、効率的な運用環境の実現が期待されています。
不動産STに関しては、私募型・大口投資家向けが依然として主流であるものの、今回のように複数の大手企業が連携した公募型の案件はまだ数が限られており、ST市場の広がりを象徴する特徴的な取り組みと言えるかと思います。加えて、一般的な公募型STOが1口100万円前後であるのに対し、本件は1口10万円と小口設定となっており、こうした取り組みを通じて、より幅広い投資家がSTにアクセスできる環境が整いつつあります。
このような背景もあり、不動産金融領域の転職市場にも新たな変化の兆しが見え始めています。従来のJ-REITや不動産クラウドファンディングに加え、ブロックチェーン技術を活用した次世代型金融商品の開発が注目を集めており、リアルタイムでの権利移転、透明性の確保、スマートコントラクトによる自動運用といったSTの活用が進んでいます。STの普及にあわせて、不動産領域における求人内容も多様化の動きが出始め、新規事業のプロジェクトマネジャーに加えて、実務を支えるミドルポジションの人材ニーズもこの1~2年で少しずつ広がりを見せています。
ミドルポジションの特徴は、ST事業において業務企画や事務設計から実行フェーズまでを一気通貫で推進する点です。不動産をはじめST対象アセットの新規商品化においても、法務・税務・会計といった多角的な観点からのスキーム構築や課題整理が不可欠で、事業推進担当者と連携しながら、全体設計を主導することが求められます。
具体的な業務例としては、不動産STに関する償還対応(物件売却等のクロージング業務)、それに伴う制度対応、内部統制の整備、開示関連業務などが挙げられます。また、新たなアセットへの取り組みにおいても、税務・会計・法務の観点からスキームを構築し、課題を整理したうえで事務全体の設計までを含めた幅広い業務が想定されています。
これらの業務は、各専門分野(税務・法務・会計など)のメンバーと連携し、部署をまたぐチーム体制で進めていきます。そのため、柔軟な調整力や関係者を巻き込む推進力が求められます。不動産証券化、アセットマネジメント、SPC管理のご経験をお持ちの方は、こうしたST事業でもその知見を活かし、即戦力としてご活躍いただける可能性が高いです。また、税理士・会計士・弁護士などの専門資格をお持ちの方も、契約書や決済スキームの設計を含め、専門性を十分に発揮できるフィールドが整っています。「不動産×ST」という次世代の金融・不動産領域の最前線で、事業成長を現場から支えたい方にとっては、新たな選択肢の一つと言えるでしょう。
不動産のトークン化市場は、すでに不可逆的な成長フェーズに入っており、今後も拡大が見込まれます。それに伴い、この分野の専門知識を持つ人材の市場価値も、一層高まっていくことが予想されます。「不動産」「金融」「テクノロジー」のスキルを掛け合わせることで、キャリアの汎用性が広がり、将来的なキャリアパスの選択肢も大きく広がっていくことが期待できます。ご興味をもたれた方は、ぜひ一度、ご相談ください。
コンサルタント 高田純