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次世代リテールバンキングと変わりゆくキャリアのかたち
2025年5月、NTTドコモが住信SBIネット銀行を連結子会社化すると発表し、携帯キャリア4社全社が銀行を傘下に持ったことで、金融サービスを巡る経済圏の囲い込み競争は一段と激しさを増しています。
ドコモが保有する9,141万件の携帯電話契約と、住信SBIネット銀行の825万口座、SBI証券の1,409万口座の連携は「通信・銀行・証券」の三位一体型プラットフォームが本格的に始動したことを意味しています。
さらに今後、資産運用、セキュリティトークン、保険といった分野でも、ドコモユーザーを基盤とした生活密着型の金融サービスが加速するとみられています。店舗を持たず、ネット上での利便性の高いサービス提供で口座数及び預金残高を伸ばしてきた住信SBIネット銀行と、ドコモの膨大な顧客基盤や販売網・クレジットカード事業・ポイント事業の融合が他金融機関のリテールバンキング戦略にも大きな影響をもたらしていくことは想像に難しくありません。
本稿では、変わりゆくリテールバンキングと、それにともなう人材ニーズの変化を考察していきます。
リテールバンキングへのアプローチはここ数年で大きく様変わりしています。「信頼と総合力(メガバンク)」「コスト効率と機能性(ネット銀行)」という単純な棲み分けではなく、現在は各社の強みを活かしながら新たな役割を模索している過渡期と言えそうです。
三井住友銀行は2025年3月時点でアカウント開設 500 万件を突破した個人向け総合金融サービス「Olive」においてSMBC グループの枠を超えた、各業界のトッププレイヤーとの業務提携のほか、機能面でも継続的なアップデートを実施し続け、注目されています。
三菱UFJ銀行は2025年5月に新ブランド「エムット」を発表。先行してアプリのリニューアルを実施し、2026年度後半にはネット専業銀行ではななく、三菱UFJ銀行の店舗網や金融のプロのアドバイスも利用出来るデジタルとリアルの利点を活かした新しいデジタルバンクを設立する事が発表されました。
また、ネット銀行はテクノロジーを活用しスピーディなサービス改善を強化しています。例えば、顧客の取引データを分析した融資判断や住宅ローン審査業務にAIを実装し、与信判断や審査にかかる時間の大幅短縮を可能にすることで精度と顧客満足度の向上につなげています。各社ともアプローチは異なりますが、共通しているのは「顧客接点の再構築」「他業界との連携」「デジタルを軸にした体験の再設計」を課題としていることです。
一例として、国内におけるBaaS事業において大きな存在感を示している住信SBIネット銀行の「NEOBANK」などは、自社の銀行機能を異業界に貸し出すプラットフォームづくりにおいて、APIを活用したビジネス拡大の好例と言えます。NEOBANKの提携先の顔ぶれ(JAL、京王電鉄、北海道日本ハムファイターズなど)が示すように、金融は他業界と共創するサービス業として進化しており、通信、IT、小売、物流、不動産など、あらゆる業界が金融に参入しているのが現状です。言い換えれば、銀行は「サービス提供主体」からもはや「インフラ提供者」や「共創パートナー」としての役割を拡大しており、とりわけリテール領域では、アプリの利便性、ポイント・決済との連携など、「顧客接点の再設計」が最大の焦点となっています。おそらく、この変化の潮流は今後、さらに加速するでしょう。
このような業界構造の変化により、金融の枠にとらわれず、異業種と横断的につながる視点やスキルが求められることは言うまでもありません。ここで、転職市場で今、非常に高く評価されるスキルにフォーカスしますと、下記のようなご経験をおもちの方が歓待される傾向にあります。
・本部・店舗・システム部門を横断した業務設計・改善の経験
・顧客視点に立脚したプロセス設計、提案フローの再構築経験
・新たな金融商品、サービス開発における企画または制度設計の経験
銀行で培った知見を活かしながら、異業種(通信やテクノロジー企業等)と交差する未来を共に創造する。未来の青写真を思い描くだけでなく、実装に落とし込める人物が求められています。
これまで「銀行で働く」ことは、「組織の中で専門性を磨くキャリア」を意味してきましたが、もはや、銀行はさまざまな業界と横断的につながる能力が不可欠となっています。今後のキャリア設計においては、社名や規模ではなく「変化の当事者になれる環境」に身を置くことが、成長とやりがいに直結します。「どの銀行に入るか」ではなく、「どんな未来を創るプロジェクトに関わるか」。これこそ、今まさに金融業界で起きている「新しい働き方」のかたちです。新たな金融プラットフォーム構築へ向け、志をお持ちの方は、ぜひ、ご相談ください。
コンサルタント 益田あずさ