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コーポレートガバナンス実務という選択肢-営業経験を活かし、“制度と対話”の専門領域へ―
企業を取り巻く環境が複雑さを増す中で、経営の質を支える“ガバナンス実務”の人材ニーズは着実に高まっています。こうした採用・実務の現場では、金融機関で法人のお客さまに向き合い、課題整理や提案を重ねてきた方々の経験が、この領域と高い親和性を持つことが意識される場面が増えてきていると感じています。本稿では、コーポレートガバナンスが注目される背景、その実務の特徴、金融機関の営業経験がどのように親和性を持つのか、そしてキャリアとしてどのような可能性が広がっているかを整理し、“制度”と“対話”の両面を扱うこの領域が、専門性を長く育てていけるキャリアになり得る理由をお伝えします。
企業が継続的に成長していくためには、利益の大小だけでは語りきれない“深さ”があります。どのような視点で意思決定を行い、どんなプロセスで判断を積み上げ、その結果をどう社会へ説明していくのか。その基盤を形づくる領域が、コーポレートガバナンスです。取締役会の構成、社外取締役の役割、資本政策、サステナビリティへの対応、株主との対話のあり方など、経営の“土台”となるルールや運営方法を扱う領域と言えます。
金融機関で、ソリューション提案型の営業として経験を積んでこられた方々には、固有の強みがあります。お客さまの状況を丁寧にとらえ、論点を抽出し、最適な打ち手を組み立てていく力。どれほど優れた商品やスキームがあっても、それを必要とする相手に届け、価値へと結びつけていく“橋渡し”の役割は、営業という仕事があって初めて成立します。
一方で、ご相談の場では、そのようなご経験をお持ちの方から次のようなお話を伺うこともあります。
「これまでのソリューション提案の経験を、もう少し“専門領域”につなげられないか。」
「企業の構造や仕組みに関わる仕事に挑戦したいが、どこから入ればよいか分からない。」
いずれも、営業という経験を土台にしながら、もう一段深い専門性を育てていきたいという前向きな問いです。そのような思いをお持ちの方に、ひとつの選択肢としてコーポレートガバナンス実務をご提案する機会が増えています。金融ならではのファイナンス知識や、企業の仕組みを理解する視点が重なることで、コーポレートガバナンスの実務とは、非常に親和性の高い土台になります。
コーポレートガバナンスの領域が注目されている背景
近年、コーポレートガバナンスの重要性は、制度面・市場面の両方から高まっています。
• コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードの整備・改訂
• 「伊藤レポート」に象徴される資本効率向上への問題提起
• PBR1倍割れ企業への東証からの改善要請
• 海外投資家を含む、株主・投資家からの対話要請の高まり
こうした流れの中で、企業には「取締役会の監督機能」「資本政策の説明」「人的資本・サステナビリティ」など、従来以上に高度なガバナンス対応が求められています。その一端は、株主総会の動きにも表れています。ここ数年、株主提案の件数は増加傾向にあり、2024年シーズンは、5年前と比べておおよそ3倍の規模になったとされます。経営陣の入れ替えだけではなく、取締役会の構成や、気候変動・人的資本への対応、資本効率と還元方針など、企業の中長期戦略そのものに踏み込んだ提案が増えてきました。企業と投資家の対話は、もはや「必要に応じて行うもの」ではなく、企業価値をどう高めていくかをともに考えるプロセスとして位置づけられつつあります。それに伴い、ガバナンス実務を担うプロフェッショナルへのニーズも、着実に高まっています。
「セールス」と「プロダクト」が重なる、めずらしい領域
金融の世界では、多くの場合「営業」と「プロダクト」が分かれています。投資銀行であれば、カバレッジバンカーとプロダクト部門、銀行であれば、RMとローンストラクチャーを組成する専門チーム。
営業はお客さまのニーズを汲み取り、実際のスキームや商品の設計は別のプロフェッショナルが担う、という分業のかたちが一般的です。一方、コーポレートガバナンスの実務は少し性格が異なります。商法・会社法という揺るがないルールを土台にしながら、
• アクティビスト対応
• 議決権行使に関する判断
• 資本政策や配当方針の検討
• 人的資本経営やサステナビリティの位置づけ
• 役員報酬や指名の仕組みづくり
• 株主名簿管理や議決権集計といった証券実務
といったテーマを扱い、企業・投資家双方に「どう伝えるか」「どう納得感のあるかたちにするか」まで関わっていきます。つまり、
• 法や制度に立脚した「プロダクト」の深さ
• 関係者と対話しながら形にしていく「セールス」の感覚
この両方が求められる、めずらしい領域だと思います。営業として培ってきた、相手の意図を汲み取る力・論点を整理する力・代替案を提案する力は、ガバナンス実務の現場でそのまま強みになります。
変化し続けるテーマに、じっくり向き合う面白さ
コーポレートガバナンスには“完成形”がありません。市場環境や社会の価値観が変われば、企業が向き合うべきテーマも変わっていきます。近年、ガバナンスの文脈で語られるテーマは多岐にわたります。
• 人的資本
• 気候変動リスク・機会
• 資本効率と成長投資のバランス
• サクセッション(後継者計画)
• 取締役会の実効性・多様性
• 情報開示の高度化
どれも、「これが唯一の正解」というものではありません。企業ごとの状況に応じて、どのような選択肢があり、その中で何を優先すべきかを、対話を通じて組み立てていく必要があります。その意味で、ガバナンス実務は“答えを提供する仕事”ではなく、企業と一緒に考え続ける仕事と言えるかもしれません。法学部・商学部で会社法や商法に親しんでこられた方、構造や仕組みを考えるのが好きな方には、手応えを感じやすい分野だと思います。また、議決権行使や株主提案に関する判断は世界的にも高度化しており、国内外の基準や投資家の視点が交差する場面も増えています。資本市場の変化を、数字やニュースだけでなく、実務として“手触り感をもって”感じられることも、この領域ならではの魅力のひとつです。
どのようなバックグラウンドの方が求められているのか
コーポレートガバナンスに関わるポジションは、事業会社・専門ファーム・金融機関など、さまざまな場に広がっています。たとえば公開されている求人では、次のような業務が挙げられています。
• 上場企業のIR・SR担当として、投資家との対話や開示を担うポジション
• 役員報酬や指名委員会をテーマとするガバナンス専門ファームのコンサルタント
• 企業価値向上や資本政策を支援するコンサルティングファームのプロフェッショナル
• 名簿管理・議決権行使・株主総会支援などを行う金融機関の実務・企画ポジション
募集条件を見ていくと、法務・経営企画・IRなどのご経験に加え、金融機関での法人営業やリレーションマネージャー経験者を歓迎する求人も少なくありません。
• 経営層と丁寧に対話できること
• 状況整理や課題ヒアリングが得意であること
• 複数の論点をわかりやすく伝えられること
こうした力は、ガバナンス実務において非常に重視されます。実際に、営業からこの領域に踏み出し、「自分の経験をこういう形で伸ばせるとは思っていなかった」と話される方もいらっしゃいます。
ガバナンス実務は、長く育てていける専門領域
ガバナンスの仕事は、一足飛びに専門家になれる世界ではありません。しかし、扱うテーマや前提となる制度が明確である分、1年、3年、5年と時間をかけて経験を積み重ねるほど、理解と視野が広がっていく領域です。
• 企業の意思決定プロセスに寄与できる
• 法務・財務・経営の知識が立体的につながっていく
• 資本市場の動きを、自分の仕事と結び付けて実感できる
• 長期的に磨いていける“職能”として育てられる
そうしたキャリアを志向される方にとって、コーポレートガバナンスは十分に検討に値する選択肢だと感じています。
関心を向けてくださった方へ
コーポレートガバナンスの仕事は、企業と投資家のあいだで、ルールと対話の両方を支えることが求められる領域です。KANAEアソシエイツでは、こうしたガバナンス実務に関わるさまざまなポジションをお預かりしており、これまでのご経験やご志向をうかがいながら、どのような選択肢があり得るのかをご一緒に整理していくことを大切にしています。「営業として培ってきた経験を、長く育てていける専門領域につなげてみたい」そのようなお気持ちが少しでもおありでしたら、ぜひ一度、お話をさせていただければと思います。
コンサルタント 谷地田まな海

