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50代の転職活動。求職者の理想と市場のリアル

 今年4月1日から施行された「改正高年齢者雇用安定法」により、事業主は従来義務付けられていた65歳までの雇用確保に加え、70歳までの就業機会確保の努力義務を求められることになりました。この背景には少子高齢化に伴う労働力不足や社会保障制度維持に山積された問題があることはご存じの通りです。人生100年時代の到来と言われて久しいですが、内閣府の調査によれば60歳以上の労働者の実に8割程度の方が70歳まで働きたいという労働意欲を持っていることがわかっています。
 
 一方で金融業界に目を向けると、店舗網の縮小とそれに伴う人員削減が加速するなど、上述の世間の潮流とは逆に、50代以降もこれまで通りの待遇、業務内容で働き続けることが一層難しくなっています。ある50代の求職者の方からは「役職定年を迎える50代で一旦キャリアの区切り、という意識で多忙な40代を駆け抜けたものの、いざ転職市場に自分が出てみると、求人の少なさや選考の厳しさなど、思った以上に年齢の壁を感じた」という話もありました。本稿では、金融業界における50代以降の転職活動のリアルな状況をご案内し、今後のキャリア形成の一助になればと思っております。

 50代以上の転職活動においても、何らかの分野でスペシャリストとしてのキャリアを歩まれた方については、ご自身の専門性を活かしてご転職に成功される方が多数いらっしゃいます。具体的な職種としては、世の中のニーズの高まりに対してプレイヤーが少ない、ESG/サスティナビリティ/コンプライアンス/リスク管理/サイバーセキュリティといったテーマに携わる実務経験者は年収面も現収以上の条件で転職される方もいらっしゃいます。これらのケースでは、管理職としてのご経験は必ずしも必須要件とはならず、マネジメントのご経験がなくとも、ご自身の専門性を活かしてご転職に成功されていらっしゃる方が少なくないことは見逃せません。ご本人としては意に沿う異動ではなかったと振り返られた監査部門における経験を評価され、事業会社の内部監査室長に転職された方もいらっしゃいました。ご自身の「専門スキルを言語化する」ことで、転職先の選択肢が広がります。ぜひそのお手伝いをさせていたきだく存じております。

 一方で、金融機関において営業拠点を複数経験し、管理職としてマネジメントのご経験を積まれた、所謂ジェネラリストの方については、転職先でも活かせる「顧客ネットワーク」をお持ちの場合は企業側からの評価は高いものの、それ以外の場合では一般的に、希望する業務内容で現収以上の待遇を満たす求人が少なく、転職活動が長期化しブランクが長引いてしまうケースが散見されます。そのようなことを避けるため、ご転職相談の場で改めて、以下の4つのポイントについて整理していただいております。
(1) 給与:年収の低下はどの程度まで許容出来るか?
(2) その他労働条件:勤務時間、勤務場所、休日休暇等で大切にしたいことはあるか?
(3) 経験・スキル:転職しても活かせる自分の経験やスキルは何か?
(4) 企業・仕事の魅力:自分が大切にしたい価値観や、それに合う仕事、企業風土はどのようなものか?
(1)や(2)といった条件面はもちろん大切ではありますが、自分のキャリアを豊かにする、条件面以外の「ものさし」を予め準備しておくことをお勧めしています。たとえば(3)、(4)を軸にすることで自分の強みを生かせる仕事に従事できるやりがいや、共感できるテーマに携われる満足感が豊かさの尺度となる場合もあるでしょう。転職活動の早い段階から、「他者の事例から相場観を把握すること」や「ご自身の優先順位を整理すること」を行った方は、転職先選びの軸が明確になることで、少ないチャンスを逃さず、企業とのご縁を引き寄せているケースが多いと感じます。
 無事に転職活動に成功し、新しい会社の入社日を迎える前に、ぜひお伝えしたいことがございます。受け入れる企業側は、新たな部門を立ち上げたり、会社自体をさらに大きくするタイミングであることが多く、いざ出社してみると、社内システムが整っていなかったり、顧客基盤が乏しかったりと、前職とのギャップを感じられるケースも多々あると存じます。そこに適応できずに短期での退職になってしまいますと、その後のキャリアパスの致命傷になりかねません。これまで安定的に用意されていた職場とは全く異なる環境に飛び込み、0から作り上げていく、という入社前の心構えが非常に大事になると存じます。
50代以上の転職活動は厳しい道のりですが、ゴールにたどり着く喜びもひとしおです。
是非一度、ご自身の今後のキャリアの選択肢を一緒に展望させていただければと存じます。

 翻って、企業側はどうでしょうか。70歳までの就業機会確保はあくまで努力義務とされていますが、これまで通りの意識を変えられなければ、当然イメージダウンにつながりかねません。求職者側のニーズを汲み取り、50代以降の働き方を積極的に提案できることは50代以降の人材のみならず、今後40代、30代の優秀な人材を確保するための呼び水になるのではないでしょうか。例えば、総合職的な異動は30代までにとどめ、40代以降は専門性を深めるよう異動を最小限にとどめるような制度があれば、従業員のモチベーションアップにつながり、採用・離職防止の面で競合優位性を示す、大きなメリットをもたらしてくれるのではと考えます。企業の人事制度の再構築にも期待しています。

 専任コンサルタント 藤縄拓

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