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金融業界における新規事業の潮流変化と求められる人材像の変遷
「フィンテック」という言葉が登場したのが今から約10年前。以後、金融業界は様々な分野での新規事業に取り組んで参りました。本稿では過去10年間の金融業界における新規事業への様々な挑戦を振り返るとともに、現在、顕在化してきている新たな潮流、また、それに伴って変わりゆく、求められる人材像についてお伝えします。
フィンテックブームと異業種参入の試み
「フィンテック」という合言葉を掲げ、金融×テクノロジーの機運が高まり、金融業界が本業以外の新規事業に踏み出し始めた2016年当初、メガバンクにおいても社内ベンチャーや少額出資による立ち上げが相次ぎました。ITエンジニアやデジタルマーケターなど、異業界からの人材を招聘し、さまざまな非金融サービスに金融機能を組み込む試みや、ベンチャー投資の増加がみられました。具体例を挙げますと、証券会社ではブロックチェーンを用いたWeb3や仮想通貨、NFT、セキュリティトークンの取り扱い開始、生保ではヘルスケア領域と連携し、ウェルスナビなどスマートフォンで気軽に資産運用できるアプリの開発、住友生命のバイタリティ(健康増進型保険)や東京海上の従業員を対象とした健康保険向け健康改善サービスの開発、エンベデッド・ファイナンス(組み込み型金融)としての決済系事業など、さまざまな領域でゼロから1を生み出すためのトライアルが行われてきました。
試行錯誤の結果:自前創出の困難さとM&Aの成功
こうした試行錯誤の中から、多くのサービスが生まれましたが、株主の期待を超える成果につながらなかったケースも少なくありませんでした。
その要因としてイノベーションを求め、異業界から参入してきた人材が求める風通しのよい環境と厳格な規制・ガバナンス・セキュリティの堅牢性を求める従来の金融業界の風土の相性の悪さが繰り返し指摘されていました。
たとえば、社内調整の多さ、意思決定のスピード、責任所在の曖昧さなどから生じる温度差からはじまり、既存ビジネスへの悪影響を過度に警戒し、新規の外部連携を阻害されることや評価制度が新規事業のエラー学習を許容しづらく、チャレンジの機会が持続しない環境などを理由に異業種から金融業界へ参入してきた人材の離脱が目立つ領域も存在しました。
一方で、明確な成功事例もありました。その筆頭に挙げられるのが、損保の介護事業です。損保ジャパンがワタミの介護事業を丸ごと買収したSOMPOケアは業界第2位にまで成長しています。もともとヘルスケア・未病領域は潜在的な需要も広かったことに加え、買収により顧客基盤とオペレーションを獲得した手法が成果につながったと言えます。
潮流の緩やかな変化:事業創造から「事業投資」「最適化」への戦略
損保ジャパンの成功事例に続くように、近年では事業投資に舵を切る動きが目立っています。具体的な買収事例としては
・2023年11月、日本生命が介護業界最大手のニチイを買収
・2024年5月、第一生命ホールディングスは福利厚生サービス大手のベネフィット・ワンを約2920億円で買収・完全子会社化
・2025年1月、東京海上ホールディングス建設コンサルティングのID&Eホールディングスを買収
などがすぐに想起されると思います。総じて、金融本業の強みである、「資金調達、目利き評価、リスク管理」を主軸にいわゆる商社的にポートフォリオの最適化を図る発想の転換が明確化した結果と言えそうです。投資の手法においても50%未満のマイナー出資、ベンチャー投資による成長の取り込み、フルM&Aによる事業獲得とシナジ ー創出と多様化していることも特徴的です。
大きな戦略転換の背景には株主や投資家からの収益向上のプレッシャーも背景にあると考えられます。ゼロから1を創出する、新規事業を独自で生み出す動きから、強く結果を求める局面に移行したと言えるかもしれません。
求められる人材の変容:「クリエイティブ人材」から「投資専門人材」へ
新たな潮流の影響は求められる人物像にも変化をもたらしています。すでに、イノベーションを求める「事業創造型人材」から「投資実務に強いスペシャリスト人材」へと緩やかにシフトしています。とくに重視されるスキル・経験としましては、投資先ソーシング/デューデリジェンス(ビジネスモデル、財務分析、契約交渉、バリュエーション)/PMI(買収後の統合)と投資後の価値向上(コスト・マージンの統合など)があげられます。投資銀行や戦略コンサル、監査法人系のファイナンシャル・アドバイザー、VCキャピタリスト、ファイナンシャルサービス研究機関で経験を積まれた方が求められる傾向にあります。
配属先のポジションは多岐に渡りますが、おもに経営企画部門、事業戦略部門など事業投資とポートフォリオの最適化を担う中枢部門への優遇が特徴的です。またこの10年間で浮き彫りになった構造的な弱みを踏まえ、組織内で専門性を重視する評価・給与制度の見直しに対する機運も高まってきていることは特筆すべきでしょう。
過去10年間の人材流動がもたらした多様性
最後に、この10年間がもたらした人材の多様化について言及しておきますと、金融業界における中途採用の増加により、IT企業、コンサルティング企業、スタートアップ企業など、多様なバックグラウンドをもった人材が流入しました。先述したように、風土の違いから金融業界での定着が難しかった方が存在したことは否めませんが、一方で、銀行内のベンチャー投資チームや新規プロジェクトへの参画をきっかけに、金融業界でのご自身の「適性」に開眼され、他部署や他部門へキャリアを展開され、キャリア転換に成功された方もいらっしゃいます。おそらくご本人にとっても10年前の転職時には想像もしなかったキャリアスライドを実現されている方も決して少なくないことは注目したい点です。
駆け足でこの10年間を振り返りましたが、「新規事業」を取り巻く動きの変化を見据え、次の10年のキャリアパスについて考えてみたいという方は、ぜひ一度ご相談ください。
コンサルタント兵藤正憲

