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国内でのカーボンプライシングの展望について

 脱炭素社会の実現に向け、二酸化炭素(CO2)に値段を付けるカーボンプライシングの推進が世界中で加速しています。その代表例である「排出量取引」は、企業ごとに温暖化ガスの排出量の上限を割り当て、実際の排出量が上限を超える企業は、余裕のある他社から排出枠を買う必要が生じる仕組みで、温暖化ガスの「実質ゼロ」を目指す海外企業の取り組みが進んでいます。
 国内でも2022年2月に経済産業省が、企業がCO2の排出量を売買できる取引市場の創設に向けた基本構想を発表するなど、注目が高まっています。本稿では制度の仕組みや金融機関の取り組みをご紹介していきます。

制度の概要

 欧州連合(EU)や中国で導入されている「排出量取引制度(ETS)」は、電力や鉄鋼、石油など規制業種の企業ごとに温暖化ガスの排出枠(キャップ)を割り当て、その排出上限を超過した企業には課徴金が課される制度です。そのため企業は排出枠を上回る場合は、排出枠の不足分を購入する必要があります。逆に省エネや再生可能エネルギーの利用などで実際の排出量が減り、排出枠を下回る場合は、市場を通して排出枠の余剰分を売却することができます。当面は石油やガスなど化石燃料に頼らざるを得ない多くの企業が、自社で削減できないCO2を、他社の削減量・吸収量で埋め合わせを行っています。

 もうひとつ、CO2の削減量をベースにした「カーボンクレジット」についても多くの企業が取り組みを進めています。排出量規制の上限を基準にしたETSとは異なり、企業・団体が省エネや森林保全等に取り組んでCO2を削減した分の認証を受けて「クレジット」として売る取引です。クレジットを買った企業はその分だけCO2の削減量を上積みしたことにでき、排出量を埋め合わせたとアピールすることが可能です。
 こうしたクレジットを生み出す手法は様々で、森林保全や植林によるCO2の削減の他、省エネ技術の導入や、排出されるCO2を集めて地下に埋める方法(CCS)も増えています。ETSに代表される規制上の取引には原則として使えませんが、自社の排出量を相殺し、投資家に対し自主的にアピールしたい企業は積極的にクレジットを購入しています。

 国内ではこれまで、東京都と埼玉県がそれぞれ独自の制度を運営するのみでしたが、前述の通り経済産業省から排出量を売買できる取引市場の創設に向けた基本構想が発表され、脱炭素に取り組む企業で構成する「GX(グリーントランスフォーメーション)リーグ」を創設し、これに参加する企業が排出量取引を2023年4月に本格開始することを目指しています。
 2022年4月時点で出量の取引市場への参加をめざす企業は440社にのぼりました。各社のCO2排出量を足し合わせると日本の総排出量の3割に相当し、排出量の多い鉄鋼や電力の主要企業も加わっています。

 創設される取引市場の参画企業には、50年の温暖化ガス排出の実質ゼロを掲げたり、30年度に13年度比46%減らす政府目標を参考に自社で目標を設定し進捗を公表することが求められます。市場で取引されるクレジットについては、GXリーグ参加企業による削減価値クレジットの他、従来のJ-クレジット(省エネ、森林保全)や、JCM(海外での削減寄与分)、海外のボランタリークレジット(国際標準クレジット)も想定され、GXリーグに参加しない企業でも省エネや森林保全への投資による削減量の取引を可能にしたり、海外企業による削減量も売買可能とする構想です。

金融機関の取り組み

 このようなカーボンプライシングの広がりに伴い、金融機関でも排出権ビジネスへの取り組みが拡大しています。
 みずほフィナンシャルグループでは昨夏に世銀グループの国際金融公社(IFC)との業務提携を発表しています。IFCは森林保護など複数の環境プロジェクトを通じ信頼性の高いクレジットを保有しており、みずほが国内企業向けに取引仲介を行い、民間取引で海外のクレジットをまとまった規模で購入できる仕組みづくりを推進中です。三菱UFJ銀行も今春、フランスの電力大手エンジー社と提携すると発表し、エンジー社が創出した排出枠を国内企業に提供できる取組みを進めています。

 また「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」では、金融機関は自社だけでなく、投融資先の排出量についても情報開示を求められるため、メガバンクを中心に取引先の温暖化ガス排出量を算定する手法づくりで連携が進められています。昨秋から各行にて企業の温暖化ガス排出量を測定するシステムを開発・販売することが発表されるなど、中堅・中小企業でも容易に温暖化ガスの排出量を測定できるような支援が銀行主導で始まっていることも見逃せません。各行が企業の脱炭素移行に積極的なのは、自社も融資先を含めた脱炭素化を求められているからに他なりません。取引先の対応が遅れれば金融機関に対しても投資家からの圧力が強まることは容易に想像できます.

 こうした環境の変化の中、弊社に寄せられている求人においても、カーボンプライシングに関する求人が増えています。メガバンクを筆頭に、取引先向けに温暖化ガスの排出量を測定する仕組みを企画するポジションをはじめ、銀行以外でも、独自に外国の排出権取引所の免許を取得し仲介取引への参入を進めている企業が、未経験者を採用してその取り組みの推進を担うポジションもございます。

 国内においてはカーボンプライシングの分野は携わる人がまだまだ少ない状態です。黎明期ともいえる今、排出権取引プロフェッショナルとしてキャリアを踏み出すことができれば、数年後には転職市場で高い評価を得られる人材になっていらっしゃると思います。ご関心をお持ちの方、ご興味をもたれた方は是非ご連絡をお待ちしております。

 コンサルタント 藤縄拓

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