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金融転職市場2022年度振り返りと2023年度の展望

新年度を迎え、昨年度の金融転職市場を振り返ると共に、今後の見通しについて考察して参ります。

2022年度総括

 メガバンク3行による大量採用が牽引し、大手金融機関全体で約1000名を超える中途採用が実施された年となりました。この結果は複数の構造的な変化がもたらしたものです。何よりもまず、伝統的に新卒を大量採用し、自社で育成する方針を長らく採っていたメガバンクが即戦力となる専門スキルや経験を有した人材を中途採用する方向へシフトしたことが大きいと言えます。このシフトチェンジは金融機関を取り巻く環境の急速かつ大きな変化に対応するために行われました。従来の金融事業のデジタル化や新規ビジネスの創設、DXの推進などさまざまな環境の変化に対応すべく、ドラスティックな変革を迫られた一年だったと言っても過言ではないでしょう。それに加え、団塊世代の大量退職により企業内の年齢構成の調整を見据えたトランジションリクルーティングであったことも要因のひとつです。

採用の多かったポジション

 採用の多かったポジションも実に様々でした。とりわけDX関連、情報セキュリティ、監査、コンプライアンス、サスティナブルビジネス、人事関連(採用、組織開発、科学的人事など)、オルタナティブ投資(PE、インフラ、VCなど)、責任投資(インパクト投資)、IR、SRコンサル、アクティビスト対応などがボリュームゾーンでありましたが、一方で伝統的な金融機関の業務も満遍なくニーズがあったことも特徴的でした。

特徴的な変化の事例

 大手金融機関の採用動向を振り返りますと、若手の採用ニーズだけでなく中堅・シニア層のニーズも増えました。また、ダイレクトリクルーティングの拡大やコロナで採用が抑制気味だったポジションもニーズが戻って来ておりますし、専門性を求める求職者の増加など変化が出てきております。以下、個別に触れて参ります。

脱・35歳転職限界説

 まず、注目すべきは30代前半までの若手採用と中堅以上の採用の二極化でしょう。若手の採用は言うまでもなくニーズが高止まりしておりますが、弊社を介した決定者の内訳を振り返りますと、53%が中堅以上のシニアクラスのご経験者でした。
 職種の内訳は不動産関連(ファシリティマネジメント)、ESG関連コンサル(ESGコンサル・IRSRコンサル)、GRC関連(監査・コンプラ・AML・システム監査など)、信託関連(相続コンサル・遺言関連)、人事関連(組織開発・労務・科学的人事など)、年金営業、海外関連(海外子会社管理・海外IT監査など)、システムエンジニア(SE・データアーキテクトなど)、広報と多岐に渡ります。
 日頃、求職者様と面談をしていると「35歳を超えると転職が難しくなるので…」と転職活動を始められる方が散見されます。確かにひと昔前までは30代半ばはひとつの節目となっておりましたが、即戦力となる人材が重宝されるここ数年ですっかり覆った印象があります。即戦力となる専門スキルを有する人材であれば40代はもちろんのこと、職種によっては50代のご経験者の決定事例も少なくありません。これまで培った経験を必要とする企業は確実に増えております。

「手に職」志向の高まり

 IT人材やDX推進、デジタルマーケティング領域の経験者への採用ニーズはあらゆる業界で高騰しています。人材の争奪戦は熾烈化しており、従来のターゲットや待遇の見直しが急ピッチで進められています。経験者にとっては優遇されたポジションとチャンスが増えたといえます。金融業界においてもIT業界をはじめとする異業界での経験者を歓迎する動きが定着しつつあります。
 またこれまで全く無かった訳ではありませんが、大手銀行から大手銀行への転職事例がここ数年で増えていることは特筆すべき傾向といえましょう。総合職として新卒入社した若手は、「5年後、10年後の自分が何をしているかわからない」ポジションに甘んじるよりも「より専門性の高まる職種に就きたい」という理由で他銀行・投資銀行の希望職種へ転身を希望するケースが増えているのです。
 異動ガチャが避けられない大手銀行の企画職より年金運用やアセットマネジメント、不動産など、何かひとつでも年齢を重ねるごとに専門性を積み上げたい。そんな「手に職」的な志向が転職理由となることは興味深い変化だと思います。

リテール営業求人復活とIFAの落とし穴

 コロナ禍の影響でしばらく対面でのコンタクトが難しかったリテール営業でしたが、通常モードに戻りつつあり、銀行・信託銀行・証券会社ともに積極採用する企業が増えて参りました。最近の採用ニーズはプロダクトプッシュ型の「売れる営業マン」ではなく、顧客ニーズに寄り添うFPを始めとした専門的な知識の裏付けのあるコンサルティング型の営業ができる人材が求められています。
 リテール営業に従事する方が一度は考えるのがIFAへの転身という選択肢でしょう。IFAへの転職が増える一方で、顧客の移管を伴うIFAへの転身が増加しており、顧客と営業員を同時に失う金融機関はこれを経営リスクと捉える動きが強まっております。これが理由でIFA転身者からの出戻りをNGとする金融機関もでてきております。NGとしないまでも出戻りでの転職に対する目線が厳しくなっている金融機関が増えています。片道切符だと腹を括る覚悟があれば尊重すべき決断ですが、実績に応じてインセンティブを得られる報酬形態を採用する金融機関も出てきておりますので、安易な意思決定での転身はお勧めできません。

ダイレクトリクルーティングの急拡大

 売り手市場で採用が激化する中、人的資本経営の視点から採用に関連する経費を「コストではなく、投資」と舵切をした動きもみられました。働き方においても多様化が進み、フルリモートが可能なポジションも登場しています。
 採用の選考フローの見直しやエージェント向けの説明会を積極的に増やすなど企業側からの働きかけに様々な工夫が見られた年でもありました。その結果、書類選考から内定までに要する期間がかなり短縮されました。企業と求職者様それぞれがオンライン面接に慣れてきたのも手伝い、従来は1.5ヵ月程度かかったものが、今では1ヵ月程度まで短くなっています。
 ダイレクトリクルーティングの導入と活用が急速に普及し、一定の成果を挙げる企業がある一方で、その運用上の手間が負担となり、撤退する企業が現れ始めたことも見過ごせません。他社との優位性をレスポンスの速さで競うことに疲弊したケースがあれば、直接やりとりすることで内定辞退などの場面で求職者の本音を知れずに終わることを危惧するケースなど、理由はさまざまですが、採用の方法においても売り手市場である環境で必要人材を確保するための模索が続いています。

2023年度の見通し

 本稿を執筆している中、シリコンバレーバンクの破綻やUBSによるクレディ・スイス・グループの買収などが報じられ先行きの不透明感が高まりましたが、転職市場が休止するような動きは今のところ見られません。「市場が急変しない限り」という前提に倣いますが、本年度もしばらく売り手市場の傾向が続くといえそうです。
 その理由として団塊世代の退職を見越したトランジションリクルーティングはまだ数年続くこと、伝統的な業務から新規事業の創出に伴う専門的な知見・スキルへの需要の高騰により、金融機関が異業界からの経験者や即戦力の採用を重視する構造の変化は止むを得ず、よって新卒採用から中途採用へのシフトは不可逆的であることが挙げられます。
 メガバンクをはじめ、大手金融機関での大量採用が今後もしばらく見込まれているので、「よりスケールアップした環境で自分を試したい」「年収アップを狙いたい」という転職はチャンスといえます。

 最近は若手を中心にご自身の「市場価値を高めるため」という理由でゼネラリストよりもスぺシャリスト志向の傾向が強くなっております。ご自身の立ち位置を知り、キャリアとチャンスの分岐点を予め知っておくことに損はないと思います。その一助になれれば幸いです。ぜひ一度、ご相談ください。

 コンサルタント 内田徹

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