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企業のデジタル変革に伴う、データガバナンス人材ニーズの拡大

 ここ数年、企業のデジタル変革が急ピッチで推進されてきました。データサイエンティスト、デジタルマーケター、社内DX、DX事業企画などDXを用い競争優位性、収益向上、顧客体験の向上を図る、いわゆる「攻め」の人材ニーズは引き続き堅調ではありますが、一時期の争奪戦と比べると、やや一服感があります。その一方で「守り」の人材、たとえば、ガバナンス、情報セキュリティ、プライバシーリスク管理ができる人材においてはまだまだ不足していると言わねばなりません。 
 とりわけ、対外的にデータビジネスを展開する企業が増える中で、データ(特に個人情報データ)に関する取扱いのルール設定やリスク管理、遵守すべきモラルを新たに策定する人材が不足しています。

 国内で起きたプライバシーデータ取り扱い二大事故のニュースは未だ記憶に新しいと思いますが、先鋭的な企業であるがゆえの「守り」の弱さを象徴的に物語っていました。ひとつは就職情報サイト「リクナビ」を運営する株式会社リクルートキャリアが就活生の内定辞退率を予測したデータを提供するサービスに関して個人情報保護委員会から勧告を受け、利用企業に関しては行政指導が行われた件です。もうひとつはLINEに登録された電話番号やメールアドレス、ID、位置情報などが中国企業からアクセスできる状態であったと報道された件です。
 前者のリクナビ問題においては提供元では「特定の個人を識別できない」と説明しながらも、利用企業側からすれば明らかに個人情報と特定できるデータ提供が「本人の同意なし」に行われていたことがプライバシーポリシーに反するとして問題視されました。後者はLINE側がユーザーの画像や動画、LINEPayの取引情報の一部が親会社でありNAVERの本拠地、韓国の情報センターで管理していることを利用者に開示していなかったことが厳しく非難されました。
 二社への勧告は個人情報がどう管理されているか、利用者が理解したうえで選択できるサービスであるか、提示された条件と相違ない運用が守られているかどうか、など情報管理における透明性の担保や運用の確実性に敏感になってきた世の中の潮流を露わにしたと感じます。もはやデータガバナンスが企業の信用に直結する時代となっているからです。

 この背景にはGDPRの影響が大きく関係しています。欧州連合(EU)は、2016年5月24日に個人情報(データ)の保護という基本的人権の確保を目的とした「EU 一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)」を発効し、2018年5月25日から適用が開始されました。GDPRは、EUを含む欧州経済領域(EEA)域内で取得した「氏名」や「メールアドレス」「クレジットカード番号」などの個人データを EEA 域外に移転することを原則禁止しており、現地進出の日系企業に勤務する現地採用従業員や、日本から派遣されている駐在員も含まれるため注意が必要とされます。行政罰規定があり、違反行為に対しては、高額の制裁金が課されるリスクもあるからです。
 
 利便性を追求し、よりよいサービスにつなげていく一方で、その運用において予測されるリスクや問題をもれなく回避しなければなりません。データガバナンス重視の潮流は金融業界も例外ではありません。銀行、証券を筆頭に、ドライブレコーダーやヘルスケアなどデータの外販の取り組みに積極的な損害保険会社、生命保険会社においても喫緊の課題といえます。他企業へ提供する際、個人情報を特定されないデータとしてどこまで加工すれば十分か、どのタイミングで情報提供の許可を得て、どこまでの開示をするのか。ビジネスやデジタル変革を本格化する中で、必要となるのはデータの取り扱いやルールやガバナンスを考えられる人材となるわけです。とはいえ、金融機関にはそのような対応ができる人材がまだまだ少ないため、業界外に期待がかかります。
 たとえば、GDPRやデータガバナンスに強い弁護士をはじめ、IT企業やITコンサル、ITベンダーにてデータマネジメント、データガバナンス、情報セキュリティ、プライバシーリスク管理などの経験をお持ちの方が優遇される傾向にあります。またGDPRや先述した二社の事故事例に加え、個人情報保護法の改正やPIA(特定個人情報保護評価)に基づくルール変更とデータ取り扱いの厳格化の動きもあり、とりわけ金融業界でデータガバナンス人材へのニーズが今後ますます高くなっていくことは明らかです。

 言うまでもなく、金融機関には高度な堅牢性が求められます。否が応でもセキュリティやリスク感度が高くならざるを得ず、これまでのご経験を活かし、さらなる力を磨くには申し分ない環境であるといえます。また特筆すべきは、こうした「守り」としての、単なるお目付け役としてだけではなく、「攻め」側のビジネス人材をサポートし、共に事業を推進していく役割を期待される求人が増えていることです。その背景にはより詳細なデータを取得できる時代の中で、入手したデータをどのように取り扱うか、データを利活用する側に高度なモラルが求められていることがあります。
 データのトラッキング機能の発達によりAmazonやYou Tubeのいわゆるレコメンド機能が可能になったことは周知の通りです。AIがユーザーの嗜好性や行動を予測し、提供されるサービスを便利だと受け止める人がいる一方で、自由意志がアレゴリズムに代替、操作されるとして、テクノロジーによる個人ハッキングであると不快に感じる人もいるかもしれません。とりわけ入手したデータ利活用の場合、その利用目的は重要視されます。
 Amazonが二重購買のアラートを促す機能につなげた例は好意的に受け止められていますが、先のリクナビ事件のように独善的な利活用をすれば社会的な信用を損なう危険もあるわけです。ユーザーの役に立つサービス提供であるのか、自社のサービスに恣意的になるあまり、その結果、誰かを貶める可能性はないのか。賢い消費者はどのような目的でデータを活用するかに対し、より敏感になっています。そうしたセンシティブな要素に関してケアできる感性を持った人材が必要です。
 ビジネスチャンスを後押しするアクセルとモラルというブレーキを同時に踏み続けられる、そんなバランス感覚に長けた人材が求められています。金融業界のデータガバナンスの黎明期ともいえる今、「攻め」と「守り」の両輪が必要だからです。こうした難易度の高いポジションへの挑戦は非常にエキサイティングなキャリアチェンジと言えると思います。ご興味を持たれた方はご連絡ください。

 専任コンサルタント 兵藤正憲

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